人間嫌いな俺とビッチな少女

マイナスイオン

決断の時





「鍋島、遅くなってごめん!」


「あぁ、いや俺も今来たところだから」


久しぶりだからお互い少しいつもよりぎこちない感じがした。


今からする話でさらに気まずくなっちゃうよね......そんなことを思い、憂鬱になりそうになる気持ちを我慢する。


「ここの喫茶店行ったの覚えてる?」


「覚えてる。確か俺と胡桃が1番最初に......」


「そうだよ~始めてのデート、ううん、一緒に行ったカフェ。あの時は新しくできたばっかりだけど今じゃすっかり街に馴染んじゃったね!」


「そうだな。だいぶ客の入りも落ち着いて待たずに入れるようになってるしな」


「ほんと、待ち時間長かったのに、始めの方なんて
鍋島全然喋んないし本当変なやつーって感じだったよ」


「お前だって携帯とずっとにらめっこしてたじゃねーか。俺はリア充な空間に耐えきれなかったんだよ」


「女の子と2人きりで来てるくせに俺はリア充じゃねえみたいな感じ出してる方がタチ悪いけどね~」


「ビッチ感丸出しだったお前も相当......」


不味いことを言ったと思ったのか、咄嗟に言葉を濁す鍋島。


本当、彼は不器用だ。だけど、そういうところも好きな所の一つ。こうしてカフェに誘ったのも一緒に居られる時間を感じたかったから。


「ご注文は何になさいますかー?」


気まずい空気を察したのか、店員さんがオーダーを取りにやってくる。


「パンケーキとストロベリーソーダで」


「じゃあ私も同じくやつにする~」


「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」


「なんでまた俺と同じやつ頼むんだよ!」


「えー!いいじゃん。ねえ、鍋島俺と同じもの頼むなんてってドキってした?」


「あぁ、ドキッとしたよ」


「えっ?」


思わずその言葉に耳を疑う。


えっ?ドキッとしたの?


「ばーか、なんて顔してんだよ。冗談だよ」


もうー喜んじゃったじゃないー!


「ぶー、鍋島もそんな冗談いえるようになったんだねー!」


「それもお前のおかげかもしれないな」


「えー?今なんか言ったー?」


「何でもねーよ」


「ふーん。そっか!」


ほんとは聞こえてたけど、聞こえないふりをしてあげた。


あわよくばもう一度聞きたかったから言ってみたけど、ま、流石にもう一回は言ってくれないよね。


やっぱり私は......鍋島が好き!


不器用だけどいつも気にかけてくれて、高校祭で捻挫した時も助けてくれた。


あの時、私が捻挫をせずに屋上に行けたら保障された未来があったのかな?なんて考えてしまうこともある。


だけどもう後ろを振り返ることもやめた。


「ねえ鍋島、私、鍋島にまだ言ってないことがあるの」


私は全てを話して前に進むことを選んだのだから......


*********************


「私は東雲さんの言うように1年生の時、先輩と付き合ってヤッて、別れては他の先輩と付き合ってヤるを繰り返してた。もちろんその人たちのこと好きだったけど、私自身が快楽を得るその行為自体も求めてたんだと思う」
……


胡桃からカフェへ行こうと誘われた時点で覚悟を決めたはずだった。


だが、彼女が口に出した言葉は俺にとっては覚悟を上回るものだ。


 彼女は思わせビッチでも、ファッションビッチでもない只のビッチ......


彼女の言動、同じフォークを使ってみたり、励ましのギューと抱きしめてきたり、それらの行いは全て計画的なものだったのか?


嘘告白だって、最初からヤリ目的で?


いや、俺なんかにヤリ目的で近づくほどの価値もない。


なら、人と関わりを持たない俺と体の関係を持つことがゴールだったのか?


きっと沙霧の言動がデタラメだという思いから考えないようにしていたことが一斉に頭の中に浮かんでくる。


胡桃萌はそんな奴じゃない。私のことを信じてと言った言葉に嘘はないと俺は信じている。


だが、俺が信じた、いや信じている胡桃萌はどの胡桃萌だったのだろう?


 結局俺は誰かを信じるなんて事......


「鍋島、今までずっと隠しててごめん。私のこときっと軽蔑してるよね。惚れさせるとか、人と関わりを持たせるなんて大口叩いてたのに、私はそんなこと言える人じゃないよね。自分でも何言ってるんだろうって......」


「だけどね、鍋島に言った私を信じて欲しいって言葉に嘘はないから......鍋島に私の過去を言って軽蔑されて、一緒に居られなくなるのが嫌でずっと言えなかった。ほんと、自分勝手だよね......自分の口からいつか言おうと思ってたのに、グスっ......結局知られた後になっちゃって......」


気づけば胡桃は泣いていた。


 泣きたいのは俺も同じだ。人と関わりを持ちたいと思わせてくれたのは胡桃、お前だ。


だけど、俺は胡桃が打ち明けた爆弾の処理が上手くできない。


彼女自身の本質の問題ではなく、俺のキャパシティの範囲をとっくに超えている。


俺はやっぱりまたあの頃と同じように逃げることしかできないのか?


再び同じことを繰り返してもいいのか?


「......胡桃、私を信じてって言葉、本当に嬉しかった。こっちに逃げるだけに来ただけだったのに、気づけば、2人で過ごす時間は本当に楽しかった。昼休憩も放課後も、高校祭も......お前には感謝しかない。胡桃、俺はお前がビッチだとしても......」


「鍋島待って!」


俺の言葉はそこで遮られた。


*********************


きっと鍋島は私を庇うような言葉を言ってくれようとしたのだと思う。


だけど、それだと私の思いはきっと彼に届くことはないと思う。


わたしは胸を張って好きだと言いたい、彼に心から信じてもらいたい。


「鍋島、私ね、人に信じてもらえる人間になりたい。同情でもなんでもない、心から私に惚れさせてやるって鍋島に言えるようになるために頑張る。だから私に時間を下さい」


これが私の出した答え。


本当は好きって伝えたかった。友達としてでもいい。クリスマスだって、お正月だって一緒に過ごしたかったよ。


だけど、私がしてきたことは無くならない、それなら誇れる未来を作りたい。これからの自分に自信を持ちたい。


そしたら胸を張って私の気持ちを伝えれるかな?


それとも彼との思い出はここで終わっちゃうのかな?


ジンクスにのることができなかった、あの日が私の幸せのピークだったのかもしれない。


だけど、私が次に彼に会うのは自分に自信を持てた時だと決めた。


だからそれまでは......


「自分勝手でごめんね、さよなら鍋島......」

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