人間嫌いな俺とビッチな少女

マイナスイオン

有栖の思い





結局俺はその日は学校には行かず、胡桃と話した公園で昼まで時間を潰し、家に帰った。


帰ったまではよかった。だが、家には居ないはずの姉貴が俺を待ち構えていた。


「睦月、今日も高校休んだって聞いたわよ!ちゃんと高校行くって約束でお母さんたちからこっちに来ること許してもらってるんじゃないの?」


今の時間はいないはずなのに?どうしてだ?


だが、沙霧がこっちに来たことは姉貴には知られたくない。


「ほっとけよ。いまは高校行きたくない。
それだけだ」


「ちょっと説教じみたこと言ってみたかっただけだけどやっぱり行きたくない理由は沙霧のことかな?」


姉貴の口からピンポイントで沙霧の名前が出たことから俺は驚いた。


「なんで姉貴がそのことを?」


「萌ちゃんから聞いたのよ。詳しくは知らないけど東雲沙霧がこっちに来たってね」


「事情が分かってるなら尚更ほっといてくれ!俺はもうやっぱり人とは......」


「いい加減にしなさい睦月!」


その言葉に我に帰り、姉貴の顔を見ると今まで俺が見たことのないような、いや一度だけ沙霧に裏切られ、そのことを話した時と同じような表情をしていた。


「睦月、私はいつでもあなたの味方よ。だからこそ言うわ。いつまでも逃げてちゃダメよ」


「俺は逃げてなんか......」


「逃げてるじゃない。信頼してた幼馴染に裏切られた。私はもちろん沙霧を許すつもりもない。だけどあなたはその言葉を沙霧から一言でも聞いた?」


「それは」


「聞いてないわよね。あの日から沙霧に直接聞いその言葉の真意を聞いてない。睦月の負った傷を考えたら聞かないこと、それが1番だと私は思ってた。だけど、今は違う。睦月、あなたは沙霧としっかり向き合わないとダメ!いつまでも彼女に縛られるの?」


「......俺はもう傷つきたくない。あいつとは小さい頃から一緒にいたんだ。何でも知ってると思ってた。だけど一番大事な部分を俺は知らなかったんだよ!俺に対する彼女の気持ちをな」


「その彼女の気持ちを睦月は直接聞けてないって言ってるのよ」


「だから、その言葉を聞いてどうすんだよ!俺はまたあいつに傷つけられればいいのか?」


「そうね。もしかしたら傷つくかもしれないわね。でも睦月、あの頃と違うのはあなたは1人ではないこと。一緒に悲しんでくれる人たちが今のあなたにはいる。それなのにそれすらも睦月は見ようとしてないんじゃないの?」


その言葉を聞き、俺の頭には胡桃や神野の姿が思い浮かんでしまった。


「今思い浮かんだ人たちがきっとそうよ。睦月はずっと沙霧に苦しめられてきた。もう十分じゃない?そろそろ過去とお別れしたら?」


「姉貴には俺の苦しみなんてわからねえよ」


「わかってるわよ。誰よりも睦月のことを考えてるんだから。だから私は睦月には幸せになってもらいたい。そのために沙霧としっかり向き合ってほしいの」


「向き合ったところで変わらねえよ。どうせまた傷つくだけだ」


「なら、傷つけばいいじゃない。思いっきりぶつかり合えばいいでしょ。2人は近すぎたの。だから思いっきり本音でぶつかり合いなさい」


「なんでそんなに、てか、こう言う時だけ姉貴ヅラしやがって」


沙霧と何か話せるとは俺は到底思えない。


姉貴のやつがなぜこれだけ沙霧にこだわるのかすらも分からない。


「中学の時はまんまと彼女にしてやられたかもしれないけど今度は負けちゃダメよ」


「いつから勝ち負けになったんだよ」


「ま、そのツッコミができれば大丈夫よ」


「俺が沙霧と話し合えると思うか?」


「さあね。人と関わりを持たなくなった中でも睦月はちゃんと成長してるわよ」


そう行って微笑む有栖。


「ほんと、前は凄く小さかったのにいつの間にか大きくなって、気がつけば私なんてとっくに抜かして......」


感慨深そうに話す姉貴。


そして昔の俺を表すかのように手で作る丸の
文字。


「こんな時だけ姉貴ヅラしやがって」


それに、


「それじゃ俺は豆粒じゃねえかよ」


「ま、心はこれくらいだけどね。なんでこんなになっちゃったかなぁ」


「教育の仕方の問題かもな」


「すーぐ人のせいにするんだから!睦月、私はあなたの一番の味方だから。ちゃんと向き合って、過去を乗り切りなさい」


「それにね、過去を振り返るより未来を考える方がきっと人生上手くいくから」


「考えとくよ」


 沙霧の言葉を聞き、彼女に依存していた自分、表では親しく、裏ではその人の悪口を言う人たち、総称して人間を嫌いになった。


姉貴は沙霧と向き合えと言うければ果たして俺にそれが出来るのかは分からない。


ずっと2年近く俺はそれを引きずっていたから。


だが、姉貴の元にきて、少しでも信頼できると思える奴らに会った。


いつ来るかは分からないが確実に沙霧と向き合わなければいけない日は来ると思う。


それがいつになるかは神のみぞ知ることだ。


だが、1つだけ決めた。何もせずに逃げることだけはしない。高校には行く。


そうすれば少しずつでも自ずと答えは出るはずだ。


……


しかし俺は知らなかった。信頼を築き上げようとしていた相手の過去とその爆弾を。


……


「睦月、頑張りなさい。後は......あの子、いや沙霧とは私が1回話をしないといけないかもしれないわね」

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