人間嫌いな俺とビッチな少女

マイナスイオン

開けてはならぬパンドラの箱



「萌が遅刻なんて珍しいね~!」


「大丈夫ー?体調悪いのー?」


遅れてきた私に皆が私に駆け寄る。


「うん、大丈夫!ちょっと寝坊しちゃっただけだから!」


「何ともないみたいでよかった。それはそうと、来て早々残念なお知らせだけど今日鍋島も来てないのよね~」


「あっ、そうなんだ......体調でも壊したのかな?」


さっきまで一緒にいたなんてことは言えないから私は誤魔化すことにする。


「鍋島今日いないのか~」


「幼馴染のこと聞きたかったのになー!」


「ねえ、胡桃さん」


 神野里美が私に話しかけてくる。


「最近、ううん。あの幼馴染って子が来てから鍋島くんの様子おかしくない?」


「理由はわかんないけど私もそんな気がするの」


「だよね!昨日も早退で今日は学校にすら来てなくて私、心配だし....私胡桃さんのことあまり好きじゃないけどこれは別だから」


やっぱり相当嫌われてたみたいね。


 少しドキッとした。


私が触れられたくないことに触れられた気がして......


「鍋島くんも人に裏切られた経験があるって言ってた。ま、嘘告白自体もどうかと思うけど
きっと昔の話は何かしら東雲さんが関係してると思うの」


どうやら彼女が言ったのは嘘告白の件だったみたいね。


「うん、私も聞けれることは聞いてみる」


「じゃあ何か分かったらお互い報告しよ!」


 鍋島は誰も心配してくれないなんて言ってたけどちゃんと心配してくれる人はいるんだよ。


今度ちゃんとそう伝えてあげよう。
……
「みんな揃ったみたいだな。今日から私たちのメンバーになる人を紹介する」


昼休み、私は雫と心に呼ばれ2人のクラスである2年A組へと向かった。


「みんな揃ったみたいね、今日から沙霧がうちのメンバーに入ることになったから」


「昨日転校して来た東雲沙霧です。モデルもしてるので毎回放課後入れるわけじゃないけどよろしくお願いします」


「沙霧固いよぉ~。もっとくだけた感じでいいんだからね~」


「そうだ、元は私が頼んだのだから」


「胡桃さん、顔が怖いけど私じゃこのグループに釣り合わないかな?」


「ううん、こ、こちらこそよろしく!」


 私から頼んだと言っていたけどあのプライドの塊である雫が東雲さんに頭を下げたというの?
 

彼女も彼女でトップカーストから引きずり降ろされるのは嫌だという現れなのかな?


 そうは言っても同じグループに入った以上は変に探ることはできないか......


その後、私たちは彼女の前の高校での話や、モデルの仕事の話などをワイワイ話して過ごした。


鍋島の話が出なかったことに私は安心したが、いつ出るかわかんない以上は油断はできないよね?


キーンコーンカーンコーン


「じゃ、昼休みも終わるし、今日は解散~」


「じゃ、また明日だねー」


昼休みを告げるチャイムとともに私たちは各々の教室へと戻っていく。


私は東雲さんと同じクラスなので2人で教室へと戻るのだけど終始無言だった。


そして、いきなり口を開くなり、


「放課後、屋上に来てね」


それだけを私に告げ、彼女は離れていった......


……


「ねえ何で私が胡桃さんを呼んだかわかる?」


 私は彼女に言われた通り、屋上に来ていた。


「いえ、私には全然......」


「胡桃さんってすっごい遊び人なんでしょ?」


「遊び人?な、なんで?」


「雫からぜーんぶ聞いたよ♪1年生の時に付き合ってはヤッて、付き合ってはヤッてを繰り返したんでしょ?どう?やっぱり経験が多いからそんなに落ち着いてられるのー?」


「東雲さんには関係ないことでしょ?」


「ファッションビッチなタイプかと思ってたけど本当でビッチだったなんてねぇ~」


「だから何!そのことと私を呼び出したことに何か関係があるの?」


自分でも触れて欲しくないところなのか、私はつい口調が荒くなってしまう。


「やっぱり股を開くっていうのは快楽に溺れたいからなのー?私すごく気になったの。私睦月としか経験ないからそれが知りたくてね」


「それを私が言ってどうしたいの?私の弱い部分を攻撃したいの?」


「私のこと悪魔か何かと勘違いしてない?ま、でも睦月が知ったらどう思うかな?彼はあまり知らないだろうけど何人もヤッた女を好きになるかなー?」


「っ!……」


「あっ、でも胡桃さん的には好都合なのかな?睦月は童貞じゃないし私仕込みでそこそこ上手いし!やっぱり数こなしてたら童貞じゃ満足できなくなるよね?」


「な、なんでそこまで......」


ここで泣いても惨めなだけ。今まではカーストに守られてたけど自分がしてしまったこと。


何も言い訳は、できない......


「攻めてないからそんなに泣きそうな顔しないで。でも、胡桃さんは睦月をどうしたいの?」


「どうしたい?私は……」


私はそこで言葉に詰まってしまう。精神的に攻撃されたためか、思いが口から出ない。


私は彼が人と関わりを持てるようなってほしい。あわよくば好きになってもらって、一緒に付き合って、いっぱい楽しんだり、笑ったり......


「あー泣いちゃった。ごめんね泣かせるつもりはなかったんだけど。多分今胡桃さんが考えたことは全部、私は彼とやったよ?」


さらにこう続ける。


 「それで気づいたの。幼馴染でもなく、カップルでもない。睦月を支配するということの素晴らしさにね」


「睦月は元々積極的じゃなかった。いつも私がリードしてた。最初はお姉さん気質!とか思ってたけど私が言った通りに彼は動く。1人の人間が思い通りに動くなんて最高だってことに気づいたの。睦月が転校して他の誰かをと思ったけどやっぱり睦月じゃないとダメみたいね」


東雲沙霧、この子は悪魔。


「なんで!そんなに、睦月にこだわるの?」


「なんでかなー?ま、そこはいいじゃない。でね、胡桃さんも私と似てるような気がするの。いわば走る方向が違うだけで同じく自分への快楽を求めた。違う?」


「わ、私はちがう!あなたとは」


「ま、いいわ。いずれきっとわかるようになる。それに睦月に知られたくない秘密を私は握ってるしね。また話しましょ」


そう言い、東雲沙霧は屋上から去っていく。


バタンッ


ドアの閉まる音とともに私は膝から崩れ落ち、頬を涙が伝う。


 わたしの知られたくない過去、彼が人と関わってない間の、彼が知らない私の醜い姿。


鍋島が知ったら彼は私を軽蔑するのだろうか?


 トップカーストという立場を利用してずっと隠していたもの。


そして自分自身さえも忘れようとしていたこと。


本当は彼を再び人と関わらせるなんて大口を叩けるほどできた人間ではないことを......

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