人間嫌いな俺とビッチな少女

マイナスイオン

帝都高校祭Final〜2人の約束、気づく気持ち〜



「い、いらっしゃいませー....」


私の足の痛みはもう限界に近づいていた。
立って居るので精いっぱい....
額からは大量の脂汗が止まらなかった。


お願い、もうちょっとだけ、あと30分だから....


 だけど神様は時に非情だ。なんとか頑張ろうと一歩踏み出した瞬間右足首に力が入らず私は足から崩れ落ちそうになる。


あっ、!ダメ....


その瞬間スローモーションのように私は床めがけて落ち....
ない?


「おっとット、おい胡桃、どうした?ずっと立ってて足でも痺れたのかよ!ってお前顔色悪いじゃねえか!どうした?」


 間一髪のところで私を支えてくれたのは鍋島睦月だった。


彼の表情を見て安心したのか何なのかわかんないけど私の目から涙が溢れでる。


「ひっく、ぐすっ....足が、足が....」


うまく言葉にならない。だけどその言葉で彼はきっと気づいてくれたのだろう。
 私をそっと床に下ろし、靴下を脱がそうとする。


「あっ、あぁー痛いよぉ」


激しい激痛に耐えきれず弱音を吐いてしまった。


「お前、何したんだよ!足首がパンパンに腫れてるじゃねえか!」


「きゅ、休憩終わりに階段から落ちて、それで我慢してたら」


「休憩終わりってあの時別れてからずっと我慢してたのか?」


私はこくんと大人しく頷く。


「もう3時間以上経ってるじゃねえか!どうして何も言わないんだよ!」


 痛みに耐えながらも鍋島がこんなにも感情的になるのかと驚く。


「みんなに迷惑かけたくなくて....」


「お前がこうやって怪我我慢して歩けなくなるかも
しれねえことの方が俺は心配なんだよ!早く保健室に行くぞ!」


「でも、私力もう足に力入らなくて....」


「ほら、恥ずかしいだろうがおぶってやるから俺の背中に乗れって」


そう言っておんぶのポージングを取る鍋島。


「いやでも私意外に重たいかもしれないし」


おんぶなんか人生で一回もしてもらったことないよ。それに高校祭なんて目立つ場所で....


「ま、2人の黒歴史になるかもしれねぇけど背に腹はかえられぬっていうし、これ以上悪化はやばいかもしれねえし早く乗れって」


 いつもとは態度の違う鍋島にこんなに足が痛い状態なのにドキドキしてしまう。


「後で重たかったなんていわないでね?」


「さあな、俺はお前の白馬の王子さまじゃねえから保証はしねえよ」


せっかくドキッてしたのに素直じゃないところはやっぱり鍋島らしいかな?


私は大人しく彼の背中に乗り、保健室へと向かってもらう。


よく男の子の背中は思ったよりも大きいっていうけどほんとその通り。
 

 彼は身長が高いっていうのもあるかもしれないけど私を支えてくれるには十分すぎる背中。


「こんなに足腫らすまで頑張るなんてな」


鍋島が独り言のように呟く。


「馬鹿らしいって思った?」


「いや、お前らしいなって思った」


「それは遠回しに馬鹿って言ってる?」


「ははっ、ちげえよ。去年ズル休みした俺にとっては信じられないことでもお前はいつも一生懸命だかららしいなって思っただけだ」


「鍋島に褒められるなんて変な感じー」


「ったく、お前の中での俺はどーなってんだよ」


「それ聞きたーい?」


「いいよ、きっとロクなことねえからな」


2人でそんな会話をしているうちに保健室に着いた。


「先生、胡桃足を捻ったらしくて歩けないみたいなんです」


「あなたが鍋島睦月ね、へー誰ともコミュニケーションを取らないって有名なあなたが女の子をおぶってくるなんてね」


「こっちにも色々事情があるんですよ」


「そぅ、ま、高校生のカップル事情なんて興味ないし、とりあえず捻ったのよね?足を見せてちょうだい」


 先生にまでも認められるって相当だよね。そんなことを思いながら私は足を見せる。


「やっぱり若い生徒の足はすべすべよねーほんと羨ましくなるわ」


にしてもひどい腫れねと先生は続ける。


「やっぱりすぐ病院に行った方が良さそうですか?」


「そうね!親御さんは今の時間おられる?」


「いえ、今の時間は両親ともに仕事なので家にはいないと思います」


「それにやっぱり年に一回の高校祭なので途中で早退っていうのは....」


それに今帰ってしまうと屋上に行くことができなくなる。そのため私は何とか残ろうとする。


「けれどもこんな足の状態で残すことはできないわね」


「あっ、俺の姉貴でも良かったらもしかしたらいるかもしれないです」


「そう、なら電話かけてもらえる?」


一方の鍋島は私の気すら知らず私を病院に連れて行ってくれようとする。その気持ち、本当はすごく嬉しいはずなのに、少し寂しい....


「20分後くらいには来れるみたいです」


「そう、それは良かったわ。ならお姉さんがきたら私を呼んでちょうだい。それまでは若い2人に任せるわ」


そう言って先生は私の足に湿布だけを貼り、出て行ってしまった。


「ねえ、鍋島。帝都高校祭のジンクスって知ってる?」


「あぁ、なんかさっき他の生徒が話してたの聞いたよ。一緒にずっと居られるみたいなやつだろ?」


「知ってたんだ。私、鍋島のこと屋上に誘ったよね?じゃあなんで私を帰らせようとするのよ!私がどんな気持ちで鍋島を誘ったかわかる?」


私は今年屋上に2人で行くことができないと分かってか、つい感情的になってしまう。


「どんな気持ちかなんてわからねえよ。だけど俺も
屋上に行く予定だった。一緒に居れないより居れる方がいいから」


「じゃあなんで、なんで一緒に行けないようなこと
するのよ。私は!」


その続きにどんな言葉を出そうとして居たのかは分からない。だけどそ鍋島の声によって書き消された。


「お前が心配だからに決まってんだろ!そんな足パンパンに腫れさせて、よし屋上行こうかなんて言えるわけねーだろ」


「私、屋上行くために何時間も頑張ってたのに結局
行けなかったら意味ないじゃん....」


悔しさ、悲しさ全てが重なり私の目から涙が溢れ
落ちる。


「なあ胡桃、お前が屋上に行きたいのはすごく分かった。ずっと一緒にっていうけどまだ2年生だ。一緒にいたいと思ってくれているなら来年一緒に上がれば
いい」


「でも、今年行けてないのに....」


「ま、元々神さまは気まぐれだ。行けたところで一緒
ってわけでも、行けないからダメってことでもない
だろ?来年一緒に行こうってことでいいじゃねえか」


「じゃあ来年までは一緒にいてくれるの?」


「お前が俺を惚れさせようと思ってる限りは一緒に
いれるんじゃねえか?」


彼の答えは的外れで、そもそも2人のこのおかしな
会話につい私は笑ってしまう。


「じゃあ、来年までは惚れたらダメだからね?」


「ふっ、いつまで経っても惚れはしないよ」


「あーそんなこと言ってるけど!絶対惚れさせて
やるからねー!」


「だったら早く足治せよ。そっちの方が心配で
そこまで頭回らねえから」


 「ねえ鍋島、もし私が鍋島のこと....」


プルル....


「悪い、姉貴からだ。もしもし?わかった。
胡桃は俺がおぶるから大丈夫だ。あぁ、今から玄関に向かうから」


「姉貴着いたみたいだから、先生に報告してくる」


“私が鍋島のこと好きになったらどうする?”


残念ながらその質問は私の口から発せられることは
なかった。


だけど私はもう自分の気持ちに嘘がつけない。


私は彼、鍋島睦月が好き。


人と関わるのが嫌いって言いながらも最初からいつも気にかけてくれて、いつもリードしてくれて、
不器用だけど優しい、そんな彼のことが私は好き。


嘘告白からまさか私が惚れちゃうなんて思っても
みなかったけど、先に惚れたのは私だったね。


穂希はもしかしたら最初からわかってたのかもしれ
ないなぁ。私の妹ながらに鋭いよ、ほんと。


好きだという気持ちに気付いて、なんでこんなにも
足の痛みを我慢して、屋上に行きたかったのかも
はっきりした。


今年は行けなかったけど、私は絶対に彼を惚れ
させて、両想いのカップルとして来年は屋上に行く!


「先生には言っといた。俺は流石に早退できなかったけど玄関までは送るから」


そう言ってさっきと同じように背中に乗るよう促す
鍋島。


好きだと自覚をしてしまうとおんぶという行為も凄く
恥ずかしい....


「ほら、早く乗れって」


「わ、わかってるわよ!乗ればいいんでしょ」


 心臓の音が鍋島に聞こえないか、それにドキドキ
してしまって、また心配になる。


屋上には行けないし、足も捻挫して最悪のような高校祭だったけど、2人で一緒に回れてこうしておんぶをしてもらえたと思えば悪くなかったのかもだよね。


絶対に鍋島を惚れさせるんだからねー!






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だけどこの時の私はまだ知らなかった....


この瞬間が私にとっての幸せのピークだったのかも
しれないこと。


鍋島はクラスの人と少しずつ話せるようにはなってきて、私にも心を開いてくれるようになった。
けれども、彼の心のトラウマはまだ克服されていな
かったこと。


そしてある人物の登場により、私たち2人の関係が
大きく狂ってしまうことを......





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