【連載版】僕の初恋相手は人妻です

マイナスイオン

七瀬さんとデート



待ちに待った土曜日。


待ち合わせは夕方からのため、それまではどこか地に足がつかない、どこか宙を浮いているような不思議な感覚だった。


どんな髪型がいいかな?どんな服装なら七瀬さんは僕のことを褒めてくれるのだろう?


どんな話をしよう?お洒落な彼女になんて言葉をかけよう?


僕の悩みは尽きない。 


今まで気にもしなかった全てのことが気になって仕方がない。その自分自身の変化は世界が180度変わったみたいだった。


そんなことを考えながらシャワーを浴び、軽く香水を吹きかける。普段とは違う自分がかえって新鮮だった。


「あれ?お兄ちゃん。なんか今日はやる気満々だね!」


「た、たまにはいいかなって思ってね」


「うん!そっちの方がカッコいいよ!」


「そうかな?じゃあ行ってくるよ」


妹からのお墨付きをもらった僕は上機嫌で待ち合わせ場所へと向かった。


……


「待ち合わせはここら辺なはずなんだけどなぁ」


現在時刻は17時03分、待ち合わせ時間からすると3分のオーバー。3分くらいならまだ遅刻かなと思えるけど流石にこれがあと30分続くとなれば涙が出そうだなと自虐的に笑う。


「ごめん、遅れちゃった♪」


そう後ろから声をかけられ、振り向いたその先には......


今まさに女神が降臨していた。


「ごめん、待ったよね。着ていく服悩んでたらあーこんな時間になってるって!ってね。また怒らせちゃったかな?」


申し訳なさそうに謝る七瀬さん。むしろ彼女の登場で僕は時間に遅れたことなんてすっかり忘れてしまっていた。


ぱっちり二重で輝いてる瞳はさることながら、
ランジェリーのお店で勤めている時とは違い、髪を下ろしている姿、露出度は控えめながら鎖骨、手首に足首とその三要素を備えているファッションに僕は目を奪われていた。


響に常日頃、変態だとか言ってるし周知の事実ではあるけど僕も実は相当なのかもしれない。
全て、響の受け売りではあるけど。


「七瀬さん......すごく綺麗です」


よくデート術で待ち合わせに来た女の子を褒めるのが常識なんて言うけど、僕のこの言葉は自然に口から出たものだった。


きっと僕の眼差しは本気だったのだろう。


「もう〜いくら私だって若い子に褒められると嬉しいのよ〜♪」


その様子は間違いなく、超あからさまに喜んでいた。その素直さも可愛いけど。


「じゃあ今日はそんなお姉さんがエスコートしてあげるからしっかりついてきてね!」


「は、はい。よろしくお願いします」


色っぽい表情でそんなことを言われては女の人とのデート経験もない僕はタジタジになるしかない。


一体どんなデートになるのだろう?僕の胸の高鳴りはどんどん大きくなっていった。


♦︎♦︎♦︎


顔を赤らめ、焦点が定まらない七瀬さん。


そしてそれを静かに眺める未成年の僕。


現在21時過ぎ......どうしてこうなった?


きっとお洒落な店でディナーを食べて、そこで僕の話を聞いてもらう。僕は僕で彼女に旦那さんがいるのかを確認、これがきっと最初で最後のデート(願望)になるんだろうなと考えていた。


結論から言うと天海さんが言っていた言葉に嘘はなく、彼女は結婚3年目に入る人妻だった。


もうそこには驚きはなく、やっぱり嘘ではなかったんだということしか思わなかった。今日の日が、たとえ最後であっても大好きな人と一緒にいることのできる束の間の喜ぶを噛み締めようと再度その気持ちを確認した。


しかし、その話をするには場所が悪かったようで、七瀬さんが連れてきてくれたのはお洒落なカフェのようでカフェではない洋風料理店、当然お酒の種類も豊富にある。最初は我慢してたものの、結婚の話になるとお酒を頼みだし、気づけば僕の話ではなく七瀬さんの愚痴話を聞くことになっていた。


「ほとんどね!家に帰ってこないの。ご飯作ってても急にいらないって言われることもあるし、真田くん、これって私が悪いの?」


そんなところから始まり、


「たまには一緒に寝たいじゃん?それにランジェリーショップで勤めてるから男の好きそうな下着とかで誘ったの!なんて言ったと思う?」


「その柄は好きじゃない、とかですか?」


「ぶー。そんな格好じゃ風邪引くぞ。もう若くないんだからさ!って、なんでそんなこと言われなきゃいけないのよ!私だってまだ女性でいたいのに......」


酔った勢いに任せて、今まで溜め込んでいたものが溢れてしまったのだと思った。ひたすら喋り終わると目に涙を溜めて、お化粧直し。戻ってきたと思ったらそのまま強いお酒を飲んで、今に至る。


「七瀬さん、あの大丈夫ですか?」


「ふひひー大丈夫だって、じぇんじぇん酔ってまへんから〜」


呂律が回ってないし、これは相当酔ってる。


「お家まで送りますから。タクシーでいいですか?」


「ねえ、真田くん。もう帰られないとダメ?」


「それはどういう......」


「私、今日は家に帰っても1人なの。だからもう少しだけ付き合って?」


もしここで、はいと頷けば僕は後戻りできない何かを感じた。ここでその言葉に従ってしまえば取り返しがつかないような気もした。


それでも僕は彼女のそのお願いを拒むことなんてできなかった。


「はい。何時まででも付き合います」

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