【連載版】僕の初恋相手は人妻です
不思議な気持ちと1万円のランジェリー
「おせーよ昴、一体何分かかってんだよ」
そう僕に呼びかけるのは冴木流星、このじゃん負けの発案者であり、僕の親友でもある。
そして、流星は言わずもしれたイケメンで、
高3になった今でもしょっちゅう呼び出されては告白を受け、振っている。髪色が茶髪の流星はよく先生とこれは地毛だと言い争っているが、昔から付き合いのある僕はそれが地毛でないことを知っているがそれは内緒だ。
「ごめんごめん、販売員さんに捕まっちゃってさ」
「それで?どれ買ってきたんだよ」
「結局販売員さんに勧められたからこれにしたよ」
結局、あの後、七瀬さんの積極的な接客は続いて腰に当てられたTバックとそれに合うブラジャーを購入することになっていた。
「こんな罰ゲームで1万円近くも飛んでいくなんて......」
「まあまあそう言うなって!俺もこんな高いものなんて知らなかったんだよ。なんなら1週間くらいは学食奢ってやるから」
金額の高さに流星も申し訳なさを感じてか、
バツの悪そうな顔をしている。
「にしてもお前なんでこんな際どいやつ買ってくるんだよ」
そう言うのはクラスメイトの伊吹剛。
僕とはそれほど交流がないのだが、僕のもう1人の親友である響と同じサッカー部で時々、こうして一緒に遊ぶことがある。
「こんなの加奈とかも履いてるのかと思うと俺もう色々とやべえわ!」
ニヤニヤしながらそんなことを言い出すのは
火神響、僕の親友でもあり、先ほどの伊吹とは仲のいいライバルであり親友だと彼は言う。
また、響の方は流星とは真逆のバリバリのスポーツ少年、サッカー部所属のこれまた日に焼けた肌と対照的な真っ白な歯が似合うイケメンではあるが、流星とは違い、残念イケメンの部類だと僕は思っている。女好きでもあり、ふざけることも大好きで、喋らなかったらモテるのにと女子が嘆いてるのをよく見かける。ただ、サッカーの実力は本物で素性を知らない他校にはファンクラブまでもがあるらしい。
「ちょっとこれ見せてくれよ」
「珍しいね、流星がこんなのに興味を示すなんて」
「いや、ちょっとな」
そう言って流星は何故か僕が買ったものを写真に撮り、
「よっし、送信っと」
「流星!今誰に送ったのさ?」
「誰って加奈にだよ。昴はこう言うのが好みらしいって言っといた」
「なんでそんなこと言うんだよー!これじゃ僕が変態みたいじゃないか!」
「1人でランジェリーショップに入る時点で十分変態だろ?まあ、そう気にすんなって」
「そうそう、可愛さんなら分かってくれるって」
「なんなら、それ加奈にプレゼントしてみたらどうだ?きっと喜んでつけてくれるぜ?」
「もうーみんなして好き勝手言ってー!」
「昴は弄りがいがあるからな。さ、今日の用も済んだし帰ろうぜ」
「ほんと、今日はみんなのせいで恥ずかしい
1日だったよ」
……
「じゃあな!」
「おう、また連休明けにな」
駅までついた僕たちはそれぞれの帰路につくために別れを告げる。
一人きりになった僕は、途端にあの販売員、
七瀬さんの笑顔が頭の中に浮かんでくる。
きっと彼女にとってはウブな男子高校生がきて、少し揶揄っただけなのだろうけど僕にとっては充分刺激が強く、心臓の鼓動は思い出すだけで高鳴る。
「30歳だって言ってなぁ」
30ということはもう結婚をしているのだろうか?
でも、人妻感全然ないし彼氏くらいはいるかもしれないけど旦那さんがいる感じでもない。
って、僕は何を真剣に考えてるんだろう。
今まで同い年しか見てなかったから年上の彼女にほんの少し魅力を感じてしまっただけだ。
それに彼女とは接点がないし、そもそも苗字が七瀬だということしか分からない。
きっと、初めて足を踏み入れたあの場所への緊張が僕をおかしくさせてるに違いない。
心の中では今までにないこの気持ちがきっと、恋であることに気づいていた。
だけど、何故だかそれを認めるとあの悪戯っぽい笑みを浮かべる彼女に負けたような気がして、ひたすら否定を繰り返すしかない僕だった。
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