炎罪のウロボロス

あくえりあす

52、暗黒の空間


「政治家や官僚は我々国民に死ねといっているのも同じだ!」

「もう限界だ。生活が苦しくて……我々の一票が生きたためしなんかないじゃないか!」

デモに参加している人々へのインタビューが延々と続いた。
スタジオの批評家が見解を述べる。

「増税が実行される度に、それに比例して倒産件数や自殺者が急増しています。両者に因果関係があるのは明確です。今の政府は国民のための政府ではない。既得権益にしがみつき、さらなる自己増殖だけを目的とするモンスターと化しているとしか思えない」

政府に対する辛らつな言葉はさらに続いた。
私はモニターから視線を外し、窓の外を流れる風景へと目線を移した。

「大東京環状線 Greater Tokyo Circular Route」

どこまでも野放図に広がる大都市。
車窓から見える、そのまばゆい光の群れは、あたかも終わりが無いようにも思えた。だが郊外へと向かえば自ずと、都心部の林立する巨大なビル群から放たれる、さながら宝石の洪水のように輝く美しい夜景の光も、次第にその規模を小さくしていった。
そしてさら車を走らせて行くと、家々の窓からこぼれる生活の光や、夜道を照らす街灯の明かりすらもない巨大な暗黒の空間が、そうした街明かりの中にこつ然と姿を現しはじめた。
それは、いわゆるゴーストタウンと化した人々の営みの残滓だ。
極限に至った貧富の差によって、こうした空間を、この巨大都市もついにはそこかしこに内包するに至ったのだ。
そう。私が暮らす高層マンションから見たあの違和感。失われた繁栄の光。そこに現れた巨大な闇の空間。私は今、その只中にいたのだ。

「どうしたものかな……」

誰に言うでなく、私はほとんど無意識のうちにそう呟いていた。

「いかがされましたか」

だが優秀な秘書は当然の如くこれに反応した。
モニターには依然としてニュース映像が流れている。だから彼女の姿はそこにはない。ただその優しげな声だけが、音声出力機を通して私に伝わってくる。

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