炎罪のウロボロス

あくえりあす

43、教会を食らう赤い怪物


早くこの場から離れないと!

考えている余裕などない。私の正面に、教会を食い尽くそうとする怪物の魔の手が、未だわずかに届いていない空間があることに私は気付いた。
それは、この場所に誘われるようにして先程私がくぐって来た、この教会の壊れた入り口だった。
私は心を無にして正面突破を図った。それは飢えた肉食獣の股下を掻い潜るような無謀な行為だった。が、他に選択肢はない。

――悪夢だ。

そうだった。まさに全てが夢のように思えた。そして、そう思ったのは、今日何度目のことであろうか。

熱い。
熱い、熱い、熱い!

揺らめく赤い魔物が四方から迫って来た。
私は思わず、再び目を閉じた。

契約は?!

私は大きな声で叫んだ。

「エノク!……俺との約束を果たせ!」

湧き上がる負の感情を必死に振り払い、私は全速力で炎の門を潜り抜けた。

「契約は、実行される」

その刹那、あの男の……エノクの声が、再び脳内に響いた。
私は目を見開いた。だが、燃え盛る炎に包まれた教会から、再び暗く光が余り無い朽ちかけた式場にいきなり場所を移したため、まったく目が慣れずそこに広がる闇以外は何も見えなかった。そしてそのせいで、私は足元にあった何かに躓き、前のめりに倒れ込んでしまったのだった。

まずい……火の手が……ここから逃げないと。

私は即座に身を起こし、再び走り出そうとした。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品