炎罪のウロボロス
37、罪、と罰。
この目の前にいる男はやはり悪魔で、契約違反の罪を犯した途端、つまり私がネガティブな感情を抱いた途端に、私の魂を手に入れる。つまり、そういうことだ。
だが、あえて問おう。この男が何と答えるか。私は強い興味を抱いた。
「じゃあ俺が契約違反をしたら、いったいどんなペナルティが課されるんだ?」
男は即座に、そして淀みなく答えた。
「いや、ペナルティを科すことなど無いよ。ただ契約が無効になるだけだ」
私は呆気にとられた。余りにも意外な回答だった。そしてまた疑念が……浮かびそうになったので、思考することをやめた。
「しかしだ。君がまたあれこれと余計なことを考え不安に陥らぬよう、僕から説明しておこう。契約が無効になるということは、僕が君に与えたこの世界における免罪符が一切効力を失う、ということだ。即ち、君はその瞬間からこの世界で用意されている罰を受けるリスクを負う、ということになる」
そうだ。私は人殺しだ。そして今は追われる身だ。この男からペナルティを科されないとしても、いずれは警察に捕らえられ、司法の場で裁きを受け、それ相応の刑罰が与えられるのは自明の理である。
だが私は――未成年だ。最悪でも死刑だけは免れる可能性が大だ。
一方で、この男と契約不履行になった場合、この男は私の“死後”に何らかのペナルティを科すのではないか、との疑念も残る。この男なら、そうしたことをきっといとも簡単にやってのける。そう思えてならない。
だから私はあえて、彼の発言の揚げ足を取った。
「だとしても……この世界でもペナルティを科さなくても、あんたは、俺が死んだ後に……」
「いい心掛けだね」
そこまで言いかけたとき、男が私の言葉を遮った。
「契約を交わす前に、その約款を熟読し、疑問点があればすぐさま質問をする。君はきっとこの地上で成功するよ。私が保証する」
「話をそらさないでくれ!」
不安がよぎりそうになる。だが意を強くし、やや『声を大にして』私は話を戻した。
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