炎罪のウロボロス
35、課されるべき対価
「すでに君が何を願っているのか、望んでいるのか、僕は全て知っている。すべて、僕のもとに届いているよ」
男の口調は相変わらずだ。だが、こうして見ると、この男、どこか軽い。
その謎めいた、さも意味ありげな風体も、よくよく考えてみれば、至極滑稽だ。
燃え盛る松明を手にしたフードを被る男。こうして見れば、実に陳腐な姿かたちをしている。そしてその受け答えも、どこかステレオタイプのように思えてきた。
「では、取引をしようか」
そして男がこのときはっきりと、笑顔を見せた。
「僕は君の願いの一切を叶える。だがその代わり、君はこの取引に対し、後悔の念も、疑義も、不安も、懺悔も、その他一切のネガティブな感情や、自己を否定するような気持になってはならない。……約束、できるかな?」
私は再び困惑した。
男は確かに取引といった。だが、私に課されるべき対価を、男は提示したようには思えなかった。
しかし、である。
「ネガティブな感情? 自己否定?」
まさかそれが取引材料だとでもいうのか?
その代わりに、この微笑む悪魔は、私の願いを叶えてくれると?
「……それだけ、か?」
「君の言わんとすることはよくわかるよ。だが僕は君が考えるような悪意ある存在ではないんだよ。そう……例えば、その代わりに君の魂をよこせ、などといったゲスな取引など、もとより申し出ないので、その点は安心してくれ給え」
悪魔ではない、そういうことか。だがそれこそ、悪魔が自らを悪魔だということなど無いのかもしれない。
いや、そもそも突然現れて、私の望みを叶える云々とか……疑い出せば、まさにキリがない。
「まさにそれだよ。そうした疑念とそれに伴う強い不安感。それら一切のネガティブな感情だ。そういったものを一切持ってはならないんだ。どうだい?約束できるかい?僕と取引する気になったかい?」
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