炎罪のウロボロス

あくえりあす

28、どうせもう、俺の人生なんて……


捕まってたまるか!絶対に!!

私はもう自棄(やけ)になっていた。そこには論理的な思考も、ましてや理性など欠片もなかった。とにかく目の前の追っ手を倒し、その場から逃げる。どこまでも可能な限り、一ミリでも遠くへ逃げ、例え捕まるとしても、その時が訪れるのを一秒でも先延ばしするために。

どうせもう、俺の人生は終わりなんだ。

そう思うと私は驚くほど、本当に驚くほど冷静に……いや自分に対して冷淡になった。
さすれば他人に対してなど、言うまでもない。

クルマの中にいるヤツも殺らないと。

私の目の前で、また一人、人間という生き物が崩れ落ちて行った。
だがもうその時の私には、目の前の人間に対して、如何なる感情も感慨も存在していなかった。
だからクルマに向かって走り出した私に、その男が最期の力を振り絞って発した言葉も全く聞こえなかった。

「……だ、だめ、だ。……い、行くな」

私は開いていたままの左の後部ドアから車の中を覗き込んだ。何か違和感を感じた。だがそんなこと今はどうでもいい。重要なのは、そこには誰もいなかったという事実だ。

逃げられたか?

ならばそれまでのこと。もう二人も殺したのだ。いずれにしろ追手が来ることは必定。
殊更、血眼になって探す必要も無ければ、ましてやこの場に留まる理由など一ミリも無い。
私は再び、元々目指していた方向に向かって砂利道を先へと進むこととした。が、である。
彼らがなぜこの場にクルマを止めたのか、私はすぐに理解することとなった。
砂利道はすぐその先で終点を迎えていたのだ。といっても木々が道を遮っているわけでなかった。
道の先には広場のような空間が広がっており、そこには朽ちかけた、というほどではないものの、明かに長年にわたって放置されたままであろう、廃墟と呼ぶべき建物が建っていたのだった。

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