炎罪のウロボロス

あくえりあす

25、追ってきた一台のクルマ


えっ?! いつの間に?!

気が付けば一台の車両が音もなく、私がここまで歩いてきた一本道をたどるようにして、ゆっくりとこちらに向かって来ているのが視認できたのだ。
その距離はおよそ70~80メートルほどであろうか。私は咄嗟に道を外れ、木々の間に生い茂る比較的背の高い叢に身を隠した。
その場にしゃがみ込み、可能な限り低い姿勢を取った。鼓動が速まり、押さえても押さえても息が乱れる。震えが止まらない。

やっぱり……バレたんだ。

サイレンの音は遠ざかったのではなかったのだ、と私は思った。私の存在を知り、彼らはその音を意図的に切ったのだ。その目的は当然、より速やかに近づくために、だ。

でも……なんでバレたんだ?!
どうして、俺の居所がわかったんだ!?

私は心の中で、そう何度も叫んだ。だが詮無いことである。事実、私の背後にはピタリと張り付くようにしてクルマが一台静かに追走してきているのだから。
やがてクルマが一層近付いてくると、ヘッドライトの強烈な光が周囲を照らした。
私はさらに体を小さくして、自らを隠し果(おお)すよう努めた。
いよいよ目の前をクルマが通り過ぎてゆく。頭を伏せていた私はその姿かたちを目にすることはできなかった。が、さすがに僅か数メートル手前をクルマが横切って行く際には、砂利を踏むタイヤの音が耳に入ってきたため、その様子を伺い知ることはできた。

頼む。このまま……通り過ぎてくれ!

そう願いつつ、私はこの車の正体について、このとき強く確信した。これは、いわゆる「覆面パトカー」というヤツに違いないと。
やがて――私の願いが通じたのか、クルマはゆっくりと、そしてあくまでも静かに私の目の前を通り過ぎて行った。

幸いにして、覆面パトカーは私を見失った……のか?

期待から多少安堵したが、それでも激しい鼓動が治まることはない。
すると……件のクルマはしばらく前進を続けていたが、20~30メートル程砂利道を行ったところで不意に停車したのだった。

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