炎罪のウロボロス

あくえりあす

8、街の光


ここでも勿論、セキュリティは万全だ。私の視認など付け足し以上の何物でもない。彼らの身分証明はこのマンションの専用エレベーターに乗った時点で、既に幾重にもなされているからだ。
私はモニターから視線を外し、彼らが到着するまでのしばしの間、窓の外に広がる夜景に目をやった。
眼前にはどこまでも広がるメトロポリスを構成する巨大な摩天楼群がそびえたつ。
その数え切れないほどの巨大な建造物の全てに備え付けられた無数の窓から漏れる光。あるいは遠く地平の果てに霞んで見える、家々から漏れる光。いうまでも無くその一つ一つ全てに、それぞれの営みが内包されている。
私はそれらに思いを馳せた。
ある光は生活の糧を得るべく働く者のために、ある光は家族の団欒のために、輝きそれらを照らす。
そこには喜びもあれば、悲しみもある。あらゆる人々の様々な思いが存在している。
と、そんな風に外の風景を眺めながら、取り留めなく思いを巡らしているとき、私はふと、遠い日のある出来事を思い出した。
それはまだ私が十代のときのことだ。
私が、この世界の誰よりも酷い苦痛を一身に背負い、誰よりも自分は不幸なんだと信じて疑わなかったあの頃。夜。自室の窓から見える、街の明かり。その一つ一つの明かりが、どれも幸せそうに見え、憎悪の対象に思えてならなかった、あの高校一年の夏の日のことを。

いや、実際には、あの日の出来事を、そしてあの頃私が抱えていた心の闇を、思い出さない日など一日としてなかった。
だが、私はそれらを心の中でいつも無視してきた。目をそらし、決して消すことなど不可能なあの出来事を、記憶の中で存在しなかったこととして、私は振る舞い続けていたのだ。
しかし、今の私には、どうしてもそれが出来なかった。これから大事な客人がやってくるというのに……。
それは眼前に今広がる街の明かりの一つ一つが、あの時見た風景とはまるで正反対に、なぜかそのすべてが不幸せで悲しげに見えた……せいかもしれない。

「なんで……俺ばっかり……」

高校に入学しておよそ一か月が過ぎたころだった。
連休も終わり、多くの「クラスメート」たちがだいぶ学校生活になじみ始めたころ、逆に私はすっかり学校に行くことが不可能な心理状態に陥ってしまっていた。

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