霧夢 〜運命って信じますか〜

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貴志2

リビングに戻るとさりげなく、…さりげなーく、婦人の顔を見て、
「敦司さんはお母様似なんですね」と話を切り出した。

婦人はふふふっと微笑んで、
「あなた達も同級生だったわね。」
何かを思い出すように目を細めて、
「あの日、先日の上の息子のお見合いの日。敦司の笑った顔を久々に見たわ。あの子、本ばっかり読んで全く話もしてくれないのよ。」
「私が敦司さんに初めて会った時も本を読んでました。」
「本が好きすぎて、家よりも本が沢山ある、おばあちゃんの家に泊まることの方が多いし、でもねあの日、帰りの車で久しぶりに笑っていたの。」
私に本を貸してくれたからかな?
「私が敦司さんの本借りちゃったから読む本がなかったのかも?」
「本が無くても普段から無表情だから。家族の付き合いも面倒なのよ。きっと。」

竜宮婦人は葵の顔を改めて見て、
「あなたとの時間がとても楽しかったのね。まだ名前を聞いていなかったわね。伺ってもよろしいかしら。」
葵もあっ!と、婦人の方を向き、
「私は美貴さんの姪の白川葵です。家庭の事情でこちらでお世話になっています。」
「事情は美貴から聞いてるわ。明るくて元気ないい子。貴志君とは違って前向きね。」

ー貴志と違って?ー

葵が不思議そうな表情をしていると、
「今日は貴志君のお母さん、由貴の命日なのよ。」
葵は一瞬ぽかーんとして、
「えー!貴志、美貴さんの息子じゃないの?」

タイミングよく美貴さんが入ってきて、
「茜、葵にバラしちゃったの?もう少し内緒にしておこうと思ってたのに。」
「あらっ、内緒だったの?今日はゆっくりお話ししようと思ってたのに。」
美貴さんは少し顔を傾げて、
「そうね、今日は夕飯食べていって。葵もあとで少し時間を作って。」
葵が軽く頷き、茜さんは嬉しそうに家族に遅くなる連絡をメールした。
「そう言えば、茜今日4時(PM)と14時間違えたでしょ。学校あるんだからなんとなくでも気づかないかなぁ。」
「あらっ、4時(PM)だったの?ずっと待ってたのに。」
「まっ、いつものことだけど。気づいてあげれなくてごめんなさい。」

美貴さんがチラッと時計を確認して、
「そろそろ、車の準備してる時間だから、表にいきましょう。」

守おじさんの車に乗り、10分位すると墓地に到着した。
高嶺家のお墓は既に綺麗なお花も飾られていて、お墓の横には背中を丸めた貴志がポツンと座っていた。
貴志は葵に気付くと、
「なんだよ、結局葵も来たんじゃん。」
「ご苦労様」
美貴さんは貴志の頭を軽く撫でる。貴志は少しだけ寂しそうに笑った。

ーやっぱり、追いかけて貴志の話聞いてあげれば良かったかなー

高嶺家のお墓の前で手を合わせ、みんなで帰宅し、ちょうど裕人も帰ってきたから6人で夕飯を食べた。

夕食も終わりそうだったので葵が食後のコーヒーを淹れましょうか?と尋ねると、
「オレ、勉強あるんで部屋戻ります」
と裕人が席を立った。
「じゃあ、コーヒー3つね。」
美貴さん達はリビングへ移動し、ソファーでくつろぎ始めた。
「オレお茶でいい。」
貴志も立ち上がってソファーに移動した。

全員分の飲み物を用意して、リビングのテーブルに並べる。葵は一度立ち上がり、
「先に裕人さんの紅茶、お部屋へ届けてきます。」つと。
紅茶を運びながら、貴志の少し寂しそうな表情を思い出した。

ー知らなかったとは言え、悪いことしちゃったなぁ。親のいない寂しさは誰よりも知ってたはずなのに。ー

コンコン
裕人さんの部屋をノックする。
中から扉が開き、メガネをかけた裕人が葵の手元の飲み物を見て少しビックリする。

「おっ、ありがと。頼んでないのに悪いな。…もしかして、オレ逃げたのバレてる?」
「やっぱり、いずらかったんですね。」
葵は少し気まずそうな裕人を睨む。
「葵にも内緒にしててごめんな。」
「裕人さんなりの優しさだと思ってます。先日の"貴志なりに考えての行動"の意味もわかりましたし。」
「ハハハッ、オレそんなこと言ったっけ?」
葵は飲み物を渡し、もう一度裕人を見て、
「普段はコンタクトなんですか?ちょっとビックリしました。」
裕人はニコッと笑い
「オレ達も家族だからそろそろ敬語やめて、いろいろカミングアウトしよっか。」
「カミングアウトって。」
「とりあえず、明日から裕兄でいいから」
「はい、気をつけます。…気をつけるね」
少し語尾が棒読みになる。
「葵、紅茶ありがと。母さん待たせるとうるさいから」
「はい、戻ります。おやすみなさい。」

葵は空のお盆を持ってリビングへ戻った。

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