それでも少年は

赤猫 

第五話 これが村長(1)

 「俺、村長のこと嫌いなんだよな……」

 この村《ダイナ村》は、観光に来る人がいるくらいには、有名な場所である。そのため、村近くの森の探索をギルドにも頼んだということもあるだろう。しかし、ここまで有名になれた理由は、村長の人柄の良さや祭りなどのイベントを実行するその行動力にあるだろう。しかし、それは表向きの話だ。俺が村長を嫌いなのは、あいつの隠している秘密を知っているからと言ってもいいだろう。正直な話、報告をしに行きたくない、それほど嫌いなのだ。

 「まぁ、それでも活動報告しなきゃいけないんだけどな……」

 そう、あいつは村人たちにばれない様に隠れてしていることがある。そのことに気づいているのは、俺と村長の息子のアランだけだ。しかし、本人はそのことを誰にも気づかれていないと思っている。なんせ、痕跡を残さない様に、来る日まで証拠集めに徹しているからな。そう、その隠している秘密とは……

 「なんだ、今日はやけに遅かったので、と思いましたよ、アルト君」

 ふと、俺がそんな事を考えながら歩いていると、木の下で腕を組みながら、父親と同じ金色の髪を持つ少年がそこに立っていた。正確には、俺に対して悪態をつきながら翡翠色の眼で睨んできているのだが。というか、目つきが悪いんだから、そんな風に見るなよ。

 「なんだよ、まるで死んでほしかったかのような言い方だな、アラン?」

 「おや? そのように聞こえてしまったのか、それはすまないね」

 こいつの言葉と顔が一致していないんだよな。というか、そんなに見つめるなよ、怖いな。

 「いや、別に構わないよ、俺とお前の仲だしな、それより村長は家に居るかな?」

 「一応言っておくが、私とお前はそんな仲ではない、それと、くず野郎なら家に居るとおもいますよ、ところでしょう」

 「そうか……ま、活動報告してくるよ、それじゃあ」

 俺はそう言い、無言でアランの肩を叩くと、村長の家に向かった。家に向かう途中、何か聞こえたような気がしたので振り返ると、なぜかアランは悔しそうで、どこか悲しみに満ちた表情をしていた。

 「どうしたんだ、あいつ?」

 俺は、その表情を見て思った。アランはいい奴だ、それに責任感が強い奴でもある。だからこそ、父親のことも許せないし、昔のことも気にしているのだろう。……俺たち三人が疎遠になってしまったこと。そんなこと、俺はもう気にしてないというのに。しかし、俺からさっきのように言ったとしても、アランは否定するだろう。だから俺は、アランから言ってくれるまで待つことにした。なぜなら、きっとそっちのほうが前より仲良くなれる気がするし、何よりあいつが納得するだろう。

 「ったく、真面目過ぎなんだよ、あいつは」

 俺は、そんなことを言いながら、村長の家の扉をノックし中に入った。

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 「ただいま、父さん」

 私は、そっと扉を開け小さな声でそう言った。なぜ、自分の家なのにこんなことをしなければいけないのか? その理由は、父親の人道を踏み外した行為を彼以外が知っていることを、まだ知られてはいけないからである。そのため、できるだけ怪しまれない様に、毎日静かに入り痕跡を残さないように心がけている。

 「……またか」

 リビングに父がいないことを確認すると、二階の父親の部屋辺りから、一定の間隔で何かが、きしむような音が聞こえてくる。この音を聞くたびに胸が苦しくなり、何もすることができない自分に対して腹が立つのだ。私は、あの音の正体が、母親とのではないということを私は知っている。なぜなら、母親は私がまだ子供だった頃に、亡くなっているからである。

 「ちッ、くそ野郎が!」

 私は玄関を出て小さく呟き、いつもの場所に向かった。父親がまだリビングにいないということは、アルトがまだ報告をしに来ていないということになる。いつもより少し遅いというのが気になるが、ここで待てばいつかは来るだろうと思い、心を落ち着かせながらアルトを待っていた。

 しばらくして、アルトがこちらに向かってきたことに気が付いた。正直、アルトと話すときは緊張する。それは昔、真実を知らなかったとはいえ、アルトに対して酷いことを言ってしまったからである。しかし、一年前に謝ろうと決心し、積極的に話に行っているのだが、なぜか毎回、嫌味を言う奴という印象を与える様に話しかけてしまう。

 「なんだ、今日はやけに遅かったので、と思いましたよ、アルト君」

 このように、自分でもアルトとの接し方が分からなくなってしまい、自分でも泣きたくなるほど素直ではなくなってしまっていた。すまないアルト、本当にすまない。

 「なんだよ、まるで死んでほしかったかのような言い方だな、アラン?」

 ほらやっぱり! そう聞こえてしまっているじゃないか! ここは冷静に謝るんだ! 私なら言える、言えるぞ!

 「おや? そのように聞こえてしまったのか、それはすまないね」

 い、言えた! やったぞ! どうだ、見たか! 私はやればできるのだ! これでアルトも少しは、許してくれただろうか?

 「いや、別に構わないよ、俺とお前の仲だしな、それより村長は家に居るかな?」

 俺とお前の仲だと!? アルトは私のことを許してくれているというのか? ということは、これでそうだと言えば、やっとアルトと友達に戻れるのか! これでやっとアルトと友達に……

 「一応言っておくが、私とお前はそんな仲ではない、それと、くず野郎なら家に居るとおもいますよ、ところでしょう」

 駄目だ、それでは駄目なんだ、君がそう思ってくれているのはすごくうれしいし、今すぐ仲直りをしたいと思う。だけど、それでは、今までと同じで君に甘えてしまっているままなんだ、自分勝手で本当にすまない。でも、やはり自分から言いたいんだ、申し訳なかったと。

 「そうか……ま、活動報告してくるよ、それじゃあ」

 私は、卑怯者だ。アルトにあんなに酷いことを言っておいて、アルトにきっかけを作ってもらい、またあの時のように戻ろうとするなんて……

 「すまない、アルト」

 私は、聞こえるはずもないアルトに向かい謝っていた。こんな卑怯者でも、最低な父親の子供だとしても、もう一度君たちの隣にいていいのか? と思いながら。

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