それでも少年は

赤猫 

第一話 アルトとラディア

 「どうしてボクは、みんなと違うの?」

 男の子は啜り泣きながら、母親に聞いた。すると母親は一瞬困惑したような顔をし、すぐ笑顔になり答える。

 「いい? アルトはね、確かにみんなと少し違うかもしれない。でも例えみんなと違ったとしてもね、この世界に生きる者として同じなのよ。だからね、少しくらいみんなと違っても平気よ」

 「生きる者?」

 アルトは言葉の意味がよく分からないのか首を傾けた。

 「ふふ、そうね。アルトには少し難しかったかしら? つまりね、ここにいるってことよ」

 そういうと母親は優しくアルトのことを抱きしめ、頬にキスをするとそろそろ晩御飯の準備をするねと言い、立ち上がり台所へと向かった。

 「......夢か。随分と懐かしいものを見たな」

 俺はそう呟くと、まだぼんやりとした頭を働かせながら体を動かし、固いベットから起き上がる。そして、もうじき来るであろう人物に会うために鏡で身だしなみを整えて歯を磨く。

 「暑くなってきたし、そろそろ髪の毛切らないとな」

 目にかかった黒髪を触りながら、仕事が終わり帰ってきたら切ろうと考えていた。するとしばらくして、外からこちらに歩いてくる音と鼻歌が聞こえてきた。

 「アールートー! 迎えに来たよー!」 

 「まったく、朝から賑やかな奴だな」
 
 大きな声で名前を呼ぶ彼女に、俺はため息交じりの呆れた声で小さく呟き、急いで彼女のほうへと向かった。

 「お待たせ、ラディア……ってうわ! 何やってんだよ!」

 建付けの悪い扉を開けると、そこには家の目の前で絶賛変なポージングをしている変な奴がいた。この変な奴は、蒼色のショートボブで透き通るような青い目をした美形の女の子でこんな俺にも優しくしてくれる唯一の村の娘だ。彼女は俺と同い年くらいなのだが、どうも落ち着きがなく村の大人たちからよく怒られている。

 「えへへへ! すごいでしょ!」

 「いや、すごいっつーか何というか......」

 こいつ人の家の前でなにやってんだ? という疑問が一番に来る行動だった。だが俺は、あえてツッコミを入れなかった。なぜなら、この行動にはきっと意味があるんだと思ったからである。そう意味があると!!

 「それでね、このポーズはね、愛する人に浮気がばれたときのポーズなんだよ! それとこれは、あなたを愛してますっていうポーズなの!」

 「へーそうなのかー。詳しんだなラディアは」

 「そうなんです。私は博識なのです! 尊敬したまえアルト君!」

 「わあーすごいですねー」

 俺はそんな情報どこから手に入れたんだよと思いながらも、結局さっきの行動は一体どんな意味があったのだろうと考えていた。

 「あー! 見てみてアルト! あそこにってうわぁ!」

 遠くにある巨大な大木に意識を集中させていたラディアは、階段の存在を忘れていたのか、階段を踏み外し落下してしまった。

 「ラディア! 危ない!」

 俺は即座に《縮地》を使い、落下していくラディアの体を腕に抱え、そのまま着地する瞬間に風魔法の応用で地面との接触避け、宙に浮いた。

 「っと! 危なっかしいな、まったく!」

 「いやー危なかったねー! ナイスキャッチだよアルト少年!」

 「まったく、お前はもう少し落ち着けよな。俺だっていつまでも傍に居られるわけじゃないんだからさ」

 俺はそういうと、ゆっくりと地面に降り、ラディアを腕から降ろそうとした。しかし俺は腕から降ろさなかった、なぜなら彼女が少しいつもと違う雰囲気でこう言ってきたからだ。

 「ねぇアルト? このまましばらく歩かない?」

 「ど、どうしたんだよ急にそんなこと言って、お前らしくもない」

 一瞬動揺してしまったが、正直嬉しかった。珍しくラディアがしおらしいということもあるが、何よりこんなことができる日が来ようとは夢にも思わなかったからだ。

 「嫌だったら降ろしてくれても大丈夫だよ?」

 ラディアは上目遣いで聞いてきた。

 「べ、別に平気だよ! それよりラディアのほうが心配だよ、俺みたいな奴にお姫様抱っこされているなんて村の人に知られたら、きっと怒られてしまうから」

 自分で言っていて少し悲しくなったが顔には出さなかった。てか、上目遣い可愛い。

 「ううん、それこそ大丈夫だよ! だって私が好きでやってるんだから! それに......」

 「それに?」

 「やっぱり何でもない!!」

 ラディアは顔を真っ赤にしながらアルトの顔から視線を外した。それからしばらくは会話がなかったが、自分たちの仕事場が近くになる頃にはいつも通り会話をしていた。

 「それじゃあアルト、またあとで! お仕事頑張ってね!」

 「うん、ラディアも頑張って!」

 俺は、さっきラディアは何を言いたかったのだろうと不思議に思いながらも、気持ちを仕事モードに切り替え仕事場へと向かった。

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