TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね
TSお姉様、デートに誘われる(二度目)
うーむ……ターニャちゃんに会いに行くはずだったのになぁ……
「ジル様?」
「はい、リュドミラ様」
「……ミラと呼んで下さい」
パミール様と同じく膝をつくのを止められた俺は超可愛いリュドミラ様の上目遣いから少しだけ目を逸らしている。だって正面から見たら鼻血が出るし。
なにこの可愛い生き物……二年前はまだ子供っぽい子だったのに、凄まじい威力だよ……もしターニャちゃんに出会ってなければ魔力強化を使ってお風呂まで直行するところだ。お姫様抱っこならぬ王女様抱っこで。
確か15歳位の筈だから、日本なら中学、いや高校生?
紫紺の瞳、綺麗だなぁ……やべっ見ちゃった。
「それは出来ません、皆様に叱られてしまいます。でも、お会い出来て本当に嬉しいです」
本当に!
胸も薄いし体の線も細いけど、守ってあげたいNO,1女の子だけあるな、うん。影では"乳なし聖女"と呼ばれているらしい。聞き上手でおっとり優しい王女様だし、薄い胸も最高だよ?
「何故ですか?本人が良いと言っているのです。それに今は身内ばかりではありませんか」
身内と言ってもクロエさんやタチアナ様もいるけど……あ、二人とも嬉しそう。ツェイス殿下は黙って聞いているみたいだけどね。昔は知らずにツェイス!って呼んでたなぁ……
「私は……招かれた冒険者です。この場にいるのも場違いですから」
ムッとしたリュドミラ様、可愛い。
「怒りますよ? 私はジル様を本当の姉と思っています。場違いなどと言う言葉を聞きたくありません。其処まで距離を取って、私が嫌いなのでしょうか?」
「と、とんでもないです!先程も言いましたが、お会い出来て嬉しいですから」
「では何故目を逸らすのですか?」
「えっ……! それは……」
「私の目を見て話をして下さい」
「は、はい」
上目遣いが、眩しい! 耐えろ、耐えるんだ!
「さあ、ミラ、と」
この紫紺の瞳に見詰められたら、耐えられる奴はいるのか!? うぅ……でもやっぱり……
「リュドミラ様、無理を言ってはいけません。ジル様にも御立場があります。困ってらっしゃるのが分かりませんか?御顔が真っ赤ではないですか」
タチアナ様!ありがとう! でも顔真っ赤……頬に手を当ててみても分かんないよ。少しだけ熱いかなぁ……
「……可愛い……分かりました。でもジル様?」
「……赤……は、はい!」
「せめて一つお願いを聞いて頂けますか?」
「私に出来る事であれば」
んん……? この件ってクロエさんとしなかったか? ついさっきもお願いを聞いて、デートの約束をしたよな?
確か……他人行儀はダメ→名前を呼んで→駄目ならせめてお願いを一つ→? まさか……
「今日は歓迎の宴も用意されていますから……明日の夜にお菓子でも食べながらお話しを。ワインも飲める様になったので、二人で楽しみませんか? ジル様の冒険譚をお聞きしたいのです」
クロエさんとの約束は明後日だから大丈夫ではあるが、今日明日は難しいって言ってたし……おかしいな、こんな最高の美少女と二人きりなんて堪らない筈なのに違和感が……偶然だよな?
……まいっか! 考えてみたら俺にモテ期が来たのかもしれないぞ! アリスちゃん、クロエさん、そしてリュドミラ様、別邸には嫁(予定)のターニャちゃん!
ロリから赤毛のお姉さんまで勢揃いだ……おぉ、前世から合わせても初めての事だぞ……
これは、やはり間違いない……女の子からのモテ期が来たのだ! この流れに乗らないのか?
乗るに決まってるでしょ!!
「是非ご一緒させて下さい! 凄く楽しみです!」
「良かった! ジル姉様、約束しましたからね?」
「……ん? あ、はい!」
嬉しそうに離れていくと、何故かクロエさんとハイタッチしている。やったねミラ!って思わず話したクロエさんはタチアナ様に睨まれて真っ青になっているが……あ、泣いてる。 あの人も懲り無いなぁ……ん?鏡を見ろ? なんで?
「ツェイスお兄様、お待たせしました」
「ああ。話はもういいのか?」
「はい。後はお兄様のお時間です」
「何を話したのか気になるが……女性の話に触れるのも野暮か」
ツェイス殿下は此方を見ると爽やかに笑う。悔しいが相変わらずイケメンだ……前世もあれくらいイケメンだったら楽しかっただろうなぁ。 む、なんか腹が立って来たぞ。
もう一度観察してみよう……
リュドミラ様と同じ少しだけ波打ったブロンドの髪が眩しい。少し長めで肩に触れている。ツェツエ王家に出現する紫紺の瞳は、まさに王子の風格。背の高い方の俺より頭ひとつ上で、鍛えた身体は男らしい黄金律を保っている。白シャツ一枚なのに無駄に似合っていらっしゃってます。
才能は風雷で、非常に珍しい雷魔法を操る竜鱗騎士団の団長でもある。て言うか、脚なげーな……六年前より背も伸びてるし、あの頃は此処まで差はなかったけどな。
大陸最大最強のツェツエ王国の王子にして、超イケメン。更にとんでもない美少女に成長した妹までいるのだ。
容姿、身分、金、そして美少女な妹(重要)。
考えられる全てを持つ男、ツェイス殿下。
何で今まで気付かなかったんだ……コイツ、男の敵だ!
「ジル、二年ぶりか? 久しぶりだな」
声までイケボじゃねーか!?
もういーや、内心だけ"ツェイス"って呼んでやる!貴様は世の中の男達を敵に回したんだ!
「ツェイス、ひさしぶ……あっ! す、すいません!」
口に出してるじゃん!? アホか俺……血の気が引くのが分かる……タチアナ様に怒られる……クロエさんの二の舞だよ!
ん?聞こえてなかったのかな? 怒ってないみたい……とにかく、膝をついて誤魔化そう!顔を俯かせればバレないしー!
「失礼しました。ツェイス殿下、お久しぶりです」
「ジル、顔を上げてくれ。畏る必要もない」
手を取りやんわりと、しかし逆らえないギリギリの力で立たされてしまう。いやいや、今は勘弁して!
「顔を見せてくれ。くくく……なんだその顔は。随分と大人になったと思ったが根は変わらないのか? しかし、美しい女性になったな……二年前はまだ子供っぽさを残していたが」
「殿下……」
余計なお世話ですぅ……! しかし、ツェイスって俺と話す時も余裕なんだよな。他の男達は吃るし、胸とかチラチラ見るのに……
て言うか、手を離してくれない?
ん?なんだなんだ?
ツェイスってば徐に俺の左手を引き上げ、口元に……
って、ギャーーー!!
チューした! 手にチューしたぞ!!
何を王子様みたいな事を……あっ、王子様か……
「ツェ、ツェイス殿下……な、何を」
「何を慌ててる? 只の挨拶だろう」
「そ、そうですか」
挨拶……いやいや、今迄そんな事しなかったよね!?
「今日は訓練後に歓迎の宴を用意している。父さんも会いたがっているし、時間を貰いたい。いいな?」
「はい、身に余る光栄です」
「詳しくはタチアナから聞いてくれ。今日は座学で良かったか?」
「その予定ですが、何かあれば変更致します」
「いや、ジルの好きな様にやってくれ。竜鱗にも何人か新しく入ったからな、楽しみにしてるぞ」
「分かりました」
ツェイスって陛下の事、父さんって言うんだな。珍しいなぁ……
「では、後で」
「はい」
パミール様から始まって、リュドミラ様、ツェイスか……初日からハード過ぎないか?
全員を見送って、力が抜けた。
最後にクロエさんが手を振って、タチアナ様に耳を引っ張られて怒られてたけど。
「はぁ……」
でもこれじゃあターニャちゃんと遊ぶ時間が無いなぁ。朝から訓練で三日間の夜も予定が入っちゃったし……後で説明に行かないと……クロにも頼んでおこう。
「準備しよ」
まあ、先ずは座学の準備だな。
☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜
「タチアナ、少しだけいいか?」
「はい」
「今日の夜の件だが……」
ジルとの話も終え、ツェイスはタチアナを伴って去っていく。リュドミラとクロエは二人を見送り、じっと何かを我慢する様に立っている。そうしてツェイス達の姿が曲がり角から消えると、王女と女騎士は視線を合わせて笑みを浮かべた。
「クロエ」
「ミラ」
「「……フフフ……完璧」」
大きな声を出さないよう頑張って、リュドミラの居室に入った。
そして、再び視線を合わせてリュドミラは上品に、クロエは不敵に笑う。もう声を我慢する必要もない。
「やったわ!」
「作戦通り!」
作戦自体は単純だった。
真面目で控えめな性格を予想し、普通に誘っても上手く断られる可能性があった。
ジルは初日の宴に参席すればある意味で義務は果たしたと言える。寧ろ何度も王家として呼ぶのは恥ずべき事なのだ。それでも無理矢理に呼ぶ事も出来ただろうが、それはしたくない。
幾つかの大事な点を外さずに、自然にジルを誘い出す必要があったのだ。
夜である事、僅かな疲れ、邪魔者がいない場所、出来るなら少しのお酒、素敵な雰囲気。
予定しているのは夜の花々が咲き躍る園庭、城の上階にある夜景の綺麗なベランダの二箇所。特にベランダからツェイスの寝室まで距離はない。酒に弱いジルを酔い潰すのは悪手だから、ほんの少し気持ちが大きくなればいい。
其処にジルと……
最後の詰めを話していた時、溜息を隠さないタチアナが作戦を授けてくれたのだ。それはどうやれば自然に誘えるかの答えだった。
「ジル様に搦手は向かないと思いますが……ツェイス殿下との時間を作るのは賛成です。結果はどうあれ幸せな時になれば素敵ですね。ではお二人が別々に、時間をずらしてジル様に話して下さい」
「いいけど……どうして?」
「やる事は一緒です。お二人ともがジル様に名前を呼ぶように言って下さい。リュドミラ様はミラ、クロエ様は呼び捨てを願うのです。しかし当然にジル様は断ります」
「タチアナ……そんな事してどうするの?」
リュドミラも疑問に思ったが、クロエが質問してくれたのでタチアナの返答を待った。
「心理的誘導を……大きな願いを伝え断らせて、小さな別のものを用意するのです。殆どの人は小さな願いを断る事が出来ません。ジル様なら尚更でしょう」
成る程と二人は頷いた。
「はい。友人や家族の様に名を呼んで欲しいと言って下さい。断ったジル様にせめて共に過ごす時間をと願えば結果は簡単です」
「ならば先ず私から」
「いえ、クロエ様からでお願いします」
「え? どうして?」
「ジル様が何かに気付いたとしましょう。しかしそれでもクロエ様の誘いを受けたのに、リュドミラ様の同じ招待を断わる事は出来ないでしょう。心苦しいですが、ジル様の良識に訴えます。あくまで念の為、ですが」
「おぉ……流石タチアナね!よっ、この腹黒……」
「クロエ様、何か言われましたか?」
「ひっ……な、何でもありません!!」
クイと上げた眼鏡が光り、クロエは何時ものように真っ青になった。
後でお話しがあります……そう言われたクロエに涙が滲んだが、リュドミラも助けたりしない。やはり何時もの事だからだろう。
「クロエ、聞いたでしょう?」
「勿論、ジルったら思わず殿下の名前を言ってたわね」
「そうね……ずっと視線を離さない。私には立場を考えて目を合わせないのに。お兄様を前にしたらジル様も耐える事が出来なかったのね。なんていじらしい……」
「あの辛そうな表情。殿下は冷やかしていたけどね」
「でもお兄様も手に……甲への口づけは敬愛を意味するけど、受け取り方は様々に出来るわ。恋慕を匂わせるには丁度良かったかも。今はまだ直接的な行動は難しいでしょうから」
「うんうん。ジルも心を整理出来なかったのかな、プルプルして固まってたし。その後なんて事務的に訓練の話でしょ?逆に意識してますってバレバレだもんね!」
「ふふふ……二人とも年上だけれど微笑ましいわ。まるで物語を読んでいるみたい」
「後は適当なところ二人きりにしてしまえば……特に明後日は満月だし、夜景が最高の夜。殿下ならうまくすれば部屋にジルを」
「「ふ、ふふふふ」」
全く王女らしくない笑みを今度は浮かべたが、叱るべきタチアナもいない。二人の頭の中は恋と愛の色に染まり、頬まで紅くなっていた。
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