TSお姉様が赤面プルプルするのって最高だよね
TSお姉様、ギルドに帰還する
「名前が分からないのは不便ね……ねえ?仮の名前を私が付けても良いかな? 勿論本当の名前を思い出すまでだけどね」
俺に手を繋がれて赤い顔をする姿に、鼻血が出そうだ。今はゆっくりと歩いているので、まだ森の中。魔力を使い抱き抱えれば簡単に抜け出せるが、そんな勿体ない事はしない。お姫様抱っこは又の機会に取って置くのだ。
「……そうですね、ジルさんお願い出来ますか?」
「ふふ、大丈夫よ。変な名前なんか付けないから」
それを心配などしてないだろう、恐らく女の子扱いに戸惑っているのだ。勿論解ってしてますがね!
恐らく中学生くらいだろうか。
思春期真っ盛りの男の子に、美人のお姉さんは堪らないだろう? さっきからチラチラと繋いだ手や俺の顔を見てるの気付いてるからね。おっ、今胸も見たか!?
ククク……可愛いなぁ……
ラッキースケベは今度な!!
「キミは凄く可愛らしいから、似合う名前がいいわね……ターニャはどう? 響きも優しいし、可愛いでしょ!」
「可愛いって……あの……」
分かる! 可愛いって言われ慣れないし、素直に認められないよな! でもそこがいいのさ!
「ん? 駄目だった?」
態と悲しそうな顔をすれば、男の子なら返答は決まってるでしょう。
「い、いえ……ターニャ、可愛い名前ですね! 気に入りました」
「そう? 良かった。それじゃ、ターニャちゃん宜しくね!」
ちゃん付けで呼ばれる恥ずかしさ、あるよね。複雑な心境を表すターニャちゃんは苦笑いしか返せない。しかし女の子同士の近さに戸惑っているのか、俺がギュッと抱き締めると石の様に固まるのがわかった。
まだまだこれからだ。ターニャちゃん頑張れ!
偶に現れるゴブリンやデカい蜘蛛に魔力弾を当てながら歩いていると、痺れを切らしたのかターニャちゃんは質問をぶつけて来た。
「あの……」
「ん? どうしたの? 大丈夫よ、さっきも言ったでしょ? お姉さん強いんだから」
「あの……さっきからジルさんが使ってる力って、魔法ですか?」
「そうよ? まさか、見るのは初めて?」
そりゃ初めてだよなぁ、日本で魔法なんてゲームか小説、映画の話だもんね。
「初めてと言うか、そうですね似た様なものです」
ちっ……ここで田舎育ちなんでとか言えば、更に突っ込んで遊べたのに! 名前も覚えてない子が田舎を知ってるとか、村の名前はとか、幾らでも突っ込みポイントあったのになぁ。
「ふーん……魔法を見た事無いとか珍しいね。まあ、気にしなくて良いよ。良かったら教えてあげようか?」
「!! ボク……いや私でも使えるんですか!?」
はい、ボク頂きましたーー! ターニャちゃん順調にTSイベントをこなしてるよ。それに魔法に憧れるよね! 俺もそうだったから分かるよ、うん。
「多分大丈夫だよ。 ターニャちゃんから魔力感じるし、女の子の方が魔力の浸透性良いから」
「男は使えないんですか?」
アッシュブラウンのショート髪はそこまで揺れないが、傾けた首につられて少しだけサラサラと流れた。やるじゃんターニャちゃん! その仕草可愛いぞ。 近くで見ると濃い紺色をした瞳が困惑の色を纏う。
「ふふ、そんな事はないわ。 あくまで個人差のレベルだし、魔法使い最強と言われる人は男性だから。 超級冒険者の魔狂いって聞いたことない?」
一瞬だけターニャちゃんの表情に違和感が浮かんだが、直ぐに消えた。 何かあったかな?
「すいません、聞いた事無いです」
ターニャちゃんの回答に俺の感じた違和感も消えた。
「そっか。 とにかく魔法は使えると思うよ」
ゆっくりと森の散歩を楽しんだ俺たちの目には、開けた草原の先の防壁を構えた巨大な街の威容が飛び込んでくる。
「ターニャちゃん、あれが私が住む街アートリスだよ」
「凄く、凄く大きい街ですね……」
「この国、ツェツエ王国の第二の都市だからね。 貿易の拠点だし、人口も多いわ」
ツェツエの王都はサイズだけならアートリスに敵わない。ただ君主が住う王都には貴族達も多く、また違った趣きがあるものだ。アートリスは貿易の街だけあって、商人や旅人も沢山訪れるし店や宿も多い。良い意味なら賑やかで、悪く言えば雑多な街だろう。
「王国……あの街にも貴族はいますか?」
「いるけど、王都程じゃないわ。 余り難しく考えなくて大丈夫。 お姉さんに任せてね?」
絶対王政、封建制は現代日本人には受け入れ難いだろう。王や貴族の胸三寸で庶民の命すら危ういと心配するのは当然だ。だが……この俺、ジルがいれば大丈夫! 世界に片手の指しかいない超級冒険者に歯向かうには貴族では足りないよ。ましてやツェツエ王国の王子は笑える事に俺に惚れているんだよなぁ。
言わないけど。
「なんで、どうして優しくするんですか? 名前も言わない子供一人、信用なんて出来ないでしょう?」
おぅ……中々の厳しい言葉だね。そりゃ勿論ターニャちゃんで遊ぶ為さ!とは言えないので、当たり障りのない台詞を吐く俺。
「名前ならターニャちゃんでしょ? 子供はそんな事気にしないでいいの。それとも私が悪い人に見える?」
「いえ……そんな事は……優しい人だと思います」
可愛い事言ってくれるなぁ。大丈夫、悪い様にはしないから、ね?
「ありがとう、なら良いじゃない。それとターニャちゃんは家族はアートリスに居なさそうね……知り合いとかはどう?」
「アートリスには初めて来ました。知り合いも居ないと思います」
「うーん……とりあえずギルドに行こっか。報告もしないとね」
学ランからのお着替えイベントは後回しだ。 面倒な事を先に済まそう。
このあたりでターニャちゃんのお腹がクーと鳴る可能性を待っていたが、残念ながら聞こえたりしなかった。まあ、チャンスは幾らでもあるか。
俺達の目には門番や守衛、防壁の上に何人も立つ弓兵が見え始める。森から偶にだが魔物達が襲ってくるのだ。まああっさりとやられて終わるから、雷やスコールと同じ扱いなのだが。
「ジルさん! お早いお帰りですね!」
守衛の一人が、近づく俺に声を掛けて来た。キラキラとした眼が眩しい若者だ。
「はい、いつもご苦労様です。頑張って下さいね」
俺の声が聞けて嬉しいのか真っ赤な顔でデヘヘと笑顔になる。だが直ぐに周辺の守衛仲間にどつかれてイタタと泣き顔に変わった。
「この野郎!抜け駆けしやがって」
「なにだらしない顔してるんだ!」
「ジルさんに気安く声掛けるとは覚悟はいいな?」
俺は態とらしくキョトンとした顔をしながら門を潜ってターニャちゃんを導いて歩く。俺に声を掛けるのに頑張ったんだろうなあ。でもゴメン、名前も分からないや。
「……ジルさん、人気者なんですね」
「そうかなぁ、女性の冒険者なんて珍しいから皆んな気にしてくれるんじゃない?」
俺はすっとぼけながらターニャちゃんの顔を見た。
おや?何処か機嫌が悪そうだぞ。まさかの焼き餅ですかー? まだ会って少しなのに、俺って罪深いなぁ。
「ギルドの用事を先に済ませて、ご飯食べようか。それとも先に行く?お腹空いた?」
「大丈夫です。ジルさんのお仕事を済まして下さい」
中学生なのにしっかりしてるな。思わずターニャちゃんの頭を撫で撫でしてしまう。恥ずかしいのを我慢してるの分かるよー。
冒険者ギルドは二階建ての建物だ。横に広く面積は相当なものだろう。中庭に訓練所も完備されているし、定番の食堂やバーは合計五つもあり大きめのホテルの様だ。その日の気分で食事や酒を楽しむ事が出来る。宿泊施設もあり、ホテルその物か。だが勿論ホテルとは違う施設がある。
当然だがギルドがそれだ。
正面玄関は三段の階段を上がった先にあり、両開きのオーク材の扉はダークブラウンの色合いも合わさって重厚感を感じさせる。
そして扉の先には四つに分かれたフロアがあり、それぞれが役割を持つ。
受付、査定、クラン募集、訓練所等の施設管理の係りがあり、それぞれのエリアに固まっている。壁などはないのでかなり奥行きを感じる場所だ。空いたスペースではテーブルや椅子が散らばっており、冒険者達が集まって話したりと騒がしい。
「おい、見ろよ」
「なんすかあの美人は? 声掛けます?」
「馬鹿か……あれは超級の魔剣ジルだぞ? 死にたいなら行けよ」
「……嘘でしょ!? 魔剣って美人とは聞いてましたけどあんなに若いんですか!?」
ザワザワと騒がしくなったフロアをターニャちゃんを連れて歩く俺。ふふん、いつもながら気持ちいいぜ。まあ、しょうがないよ美人だもんオレ。
「あっちに食堂があるから、後で行こうね?」
ターニャちゃんは流石に様子がおかしいと気付いたのか、俺の方をジッと見ている。
「人気者だけじゃなくて、有名人でもあるんですね」
困惑してますよって可愛い眉を真ん中に寄せて、上目遣いで俺を見るターニャちゃん。マジ可愛いんですけど。
「言ったでしょ? お姉さん強いし、女の冒険者は珍しいから」
「割合は少ないですけど、沢山女の人いるようですが?」
鋭いツッコミを入れてくるターニャちゃん。あれれ、思ってたよりプライド高め?
「それに、超級やら魔剣やら物騒な言葉もチラホラと耳に入りますね」
「えっと……ターニャちゃん、何か怒ってる?」
「いえ、そんな事は……すいません、言葉が過ぎました」
ふむ、元はしっかりとした男の子だったのだろう。頭も良さそうだし、ツッコミ得意かもしれない。そんな男の子がTSとか、ますますやる気が出るな。
「そう? 後でゆっくりと説明するわ。ターニャちゃんの今後も決めないといけないし」
勿論俺の家にご招待するけど、着替えやお風呂イベントは外せないからな。有り余る資金でお気に入りの家を構えているのだ。部屋だって沢山あるし、デカい風呂完備だぜ。
「わかりました」
再び足を進めた俺に受付の女性が目線を送ってくる。
「リタさん、ただいま帰りました」
今朝会ったリタさんが受付席に座っていた。 リタさんも可愛いなぁ。
「ジルさん、森の調査もう終わったんですか? それにその子……」
「はい、調査完了です。この子はターニャちゃん、今回の調査にも関係あるので連れて来ました。ギルド長はいますか?」
「そうですか、少しお待ち下さい」
リタさんは少しだけ不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞く事なく階段を上がって行った。
「召喚……?」
「はい、もしくは転移かもしれないですが……」
ウラスロ……ギルド長は意味が分からないと腕を組み天井を見上げている。
「純度が上がった魔素は澄んだ魔力へと変換され、空間に穴を開けました。直接見ましたし、同時に魔素感知もしましたから間違いありません」
「いや、ジルが言うなら間違いないだろうが……それで現れたのがその娘か?」
「はい。名前が思い出せないそうで、私が仮にですけどターニャちゃんと名付けました。名前もですけど、凄く可愛いでしょう?」
「……可愛いってお前……どう上に報告すればいいんだ……」
「そのままでいいのでは? それにターニャちゃんは私が責任を持って保護しますから安心して下さい」
つまり、余計な手出しをするな……そう言う意味を込めてウラスロへ圧力を掛ける。超級冒険者の俺が保護すると言った以上、誰にも反論など出来ないだろう。
事故的に日本から飛ばされたらしいターニャちゃんに悪い意思は感じないし、何より俺の楽しみを奪われては堪らない。ここはしっかりと釘を刺しておかなければ。
「……はぁ……分かったよ。だがその前に確認だ。 ターニャだったか? 君はジルの保護を受ける事に異論はないのか? 嫌ならはっきりと言ってくれていい」
ターニャちゃんはチラリと俺を見ると、この部屋に入って初めて声を出した。
「はい。ジルさんに助けて貰いましたし、優しい人ですから凄く助かります」
「……そうか、分かった。上にはそのまま報告する。 ジル、また詳しく話そう。お前に任せるが初めてのケースである以上、多少の不便は我慢してくれよ」
まあ、それくらいはしょうがないだろう。
ターニャちゃんに必殺のジルスマイルを当てて、照れる様子を眺める至福。
「よし!ターニャちゃん、ご飯食べよっか!」
面倒事を済ました後は、イベント前の腹ごしらえだろう。その後はTSイベントのトップ3に入るだろうお着替えで赤面が待っているのだ!
金なら腐る程あるのだ、涎が止まらないな。
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