霊能者、異世界を征く!
ケモミミ兄妹
「すまない、大丈夫だったか? まさか人がいたとは……!」
二足歩行の豚が、二つの塊に別れて地面に倒れる頃、同じ場所の草むらから新たな人影が登場した。艶やかな被毛に覆われたモフモフなしっぽを持つ、背の高い背年だった。頭のてっぺんには言わずと知れた二つの大きなとんがった耳が立ち、こちらに気がつくとピピッと数回動いた。
うん、これも作り物じゃない。
「……っ!」
俺は血だらけの顔を上げたが、その青年と目が合ったほんの一瞬、彼がひどく驚いた顔をしたのに気が付いた。
なんだろう、ケモ耳をガン見しすぎただろうか?
先ほどまで硬直していたデコボココンビは、慌ててその場から飛び退り、すぐさま警戒態勢を取った。あまりの急展開に付いて行けず、ボケッと一部始終を眺めていた俺とは大違いだ。
「もうっ、お兄ちゃんが逃がすからだよ、また人様に迷惑を……あれ?」
現れたのは、またもやケモ耳の少女。
なんだよ、ここって全員獣人なの?!
せめてもの救いは、初めてのかわいい女の子だということだろうか。目を見張るような真っ白な毛並みで、抜けるように白い肌。ほんのりピンクの頬にはふわふわ巻き毛がかかり、長いまつ毛も白く、透き通るような紅の瞳を縁取っている。
彼女もまた、俺と目が合うと驚いたように目を見開いたような気がしたが、気のせいだろうか。
ちなみに、お兄ちゃんと呼ばれた方の青年は、きりっとした目元も涼やかなさわやか系だ。毛色はグラデーションも美しい茶から金色で、なんかもうキラキラだ。
それはともかく、さて……。
これは助けが来たのか、さらに危機に陥ったのか判断がつかない。
見た目で判断するなら、間違いなくこっちの方がいい人っぽいのだが。というか、もうホント訳が分からないんだけど。
誰でもいいから説明してくれ。
「ねえ、お兄ちゃん、あれ」
「……ああ、そうだな」
新たに加わった二人は、抜き身の剣を持つ俺と、同じように武器を持つ男たちの状況を、確認するように双方を見比べた。ケモ耳少女が、何かに気が付いてすぐに怪訝な顔になる。
めっちゃこっちを見ているが、注目されているのが首元だとすぐにわかった。
趣味の悪い首輪は、確かにさぞ気になることだろう。言っておくけど、好きでつけてるんじゃないから誤解しないように。
キツネ耳の青年は、少女を庇うように後ろに下げると、俺とデコボココンビの間に割り込むように歩いていてきた。
呆然と突っ立っている俺を背中に庇う形だ。
「これは、隷属の呪具だな。この獣人は、お前たちの所有物か?」
「も、もちろんだ! だが獣人ではない、そいつは人族だ。俺たちが見つけたんだから、俺たちの……」
「人族? どう見ても獣人に見えるが」
「魔術かまじないかは分からないが、俺たちが見つけた時は人族だった。だから、お前らに文句を言われる筋合いはない」
「……だが、首輪は発動していないようだが? 大方ここで偶然遭遇して、素性も確認せず、無理やり首輪をつけたというところか」
うぐっと詰まるデコボココンビは、それでも負けじと食い下がった。
「人族のはぐれは、発見者に所有の権利があるはずだぞ」
「兄貴の言う通りだ。俺たちが見つけた時は確かに人族で……と、途中で姿が変わったが、人族である限りこいつは俺たちのものだ」
「なにを言っているのかわからんが……もし、彼が本当に人族だとして、お前たちのいう権利は発生しない。発見者にあるのは、所有の権利ではない。所有を申請することができる権利だ。つまり、しかるべき場所に連絡をして、各種条件を満たしていると判断されたなら、施設の仲介のもと正式に契約することができる。そもそも、こんな一方的な隷属の首輪をつけている時点で怪しい」
「……く、くそっ!」
焦ったぽっちゃり兄貴が舌打ちをして飛び出すと、有無を言わさず血の付いた指をこちらに押し付けようとしてきた。
嫌な予感がしてのけぞるようにそれを避けたが、同時に「危ない!」とキツネ耳の少女が、俺の身体を腕の中にかばうように抱き込んだ。
女の子に庇われる状況は情けないが、背中はちょっと幸せな感触に包まれた。
『鼻の下伸ばしてる場合か、お前もちゃんと避けろ!』
「なにを! べ、べつに伸ばしてねえよ!」
急に叫んだ俺に、少女はびっくりして手を放した。
怪訝そうな顔でこちらを見る少女に、俺は誤魔化すように笑って剣を構えなおした。やはりこの声は俺にしか聞こえないらしい。
くそう、変な人だと思われたじゃないか!
思わず心の中で抗議したが、後の祭りだ。ともあれ、ケモ耳兄妹の支援で何とか危機を脱したが、向かってくる二人がしつこいのなんの。何しろ一人がイケメン兄貴の相手をしている隙に、ケモ耳妹に庇われている俺の隙を狙って、なんとか首元に指を押し当てようとして来る。
だが、ふたたび動きのよくなった俺と、少女の二人を相手にするには及ばなかったらしく、ついには痺れ切らしたように相方に声を掛けた。
「仕方がない、商品を傷つけたくはないが、やれっ!!」
距離を取った骸骨顔の弟分が、こちらにボール状のものを投げつけてきた。飛んできたそれに、ケモ耳少女は咄嗟に叩き落とすように、ムチのようなものをふるった。
――次の瞬間、辺りはフラッシュのような光と煙に包まれ視界が真っ白になった。
「……うわっ!?」
寸前に見えたのは、ぽっちゃり体形の兄貴と、イケメンキツネ兄貴が、お互いをけん制し合うように押し合いながらこちらに飛び込んでくる姿であった。
「すまない、緊急事態だ! 許せよ」
まばゆい光ともうもうと立ち上る煙に怯んで後退りした俺の耳元で、そんな声がした。気が付くと、二人の盗賊は揃って草むらの方へと弾き飛ばされて、悔しそうにこちらを見上げていた。
目の前にはキツネ耳の青年が立っており、その腕はこちらに伸ばされ、その手は俺の金属の首輪を掴むようにして血の付いた指を押し付けていた。
「あっ、くそ!? やりやがった」
のっぽの骸骨顔が、悔しそうな声を上げる。
自分の首元は見えないが、どうやら今まさに何らかの成約がなされたのだろう。
何かが首を一周するように小さな振動を感じた。首輪にどんな変化が起こったのはわからないが、少なくともゴロツキ達の意にそぐわぬ結果となったのだろう。
盗賊二人に、ケモ耳二人、そして俺。さらに見えないもう一人。
程度の差こそあれ、悲喜こもごもの視線が釘付けになる中、こうして奴隷契約は結ばれてしまったのである。
――異世界へ来て、たったの数時間。
俺は、ケモ耳のイケメン兄さんの奴隷になっちまった。って、本当に誰得だよっ!?
どうせなら、かわいい妹のケモ耳ちゃんならマシだったのに……。
二足歩行の豚が、二つの塊に別れて地面に倒れる頃、同じ場所の草むらから新たな人影が登場した。艶やかな被毛に覆われたモフモフなしっぽを持つ、背の高い背年だった。頭のてっぺんには言わずと知れた二つの大きなとんがった耳が立ち、こちらに気がつくとピピッと数回動いた。
うん、これも作り物じゃない。
「……っ!」
俺は血だらけの顔を上げたが、その青年と目が合ったほんの一瞬、彼がひどく驚いた顔をしたのに気が付いた。
なんだろう、ケモ耳をガン見しすぎただろうか?
先ほどまで硬直していたデコボココンビは、慌ててその場から飛び退り、すぐさま警戒態勢を取った。あまりの急展開に付いて行けず、ボケッと一部始終を眺めていた俺とは大違いだ。
「もうっ、お兄ちゃんが逃がすからだよ、また人様に迷惑を……あれ?」
現れたのは、またもやケモ耳の少女。
なんだよ、ここって全員獣人なの?!
せめてもの救いは、初めてのかわいい女の子だということだろうか。目を見張るような真っ白な毛並みで、抜けるように白い肌。ほんのりピンクの頬にはふわふわ巻き毛がかかり、長いまつ毛も白く、透き通るような紅の瞳を縁取っている。
彼女もまた、俺と目が合うと驚いたように目を見開いたような気がしたが、気のせいだろうか。
ちなみに、お兄ちゃんと呼ばれた方の青年は、きりっとした目元も涼やかなさわやか系だ。毛色はグラデーションも美しい茶から金色で、なんかもうキラキラだ。
それはともかく、さて……。
これは助けが来たのか、さらに危機に陥ったのか判断がつかない。
見た目で判断するなら、間違いなくこっちの方がいい人っぽいのだが。というか、もうホント訳が分からないんだけど。
誰でもいいから説明してくれ。
「ねえ、お兄ちゃん、あれ」
「……ああ、そうだな」
新たに加わった二人は、抜き身の剣を持つ俺と、同じように武器を持つ男たちの状況を、確認するように双方を見比べた。ケモ耳少女が、何かに気が付いてすぐに怪訝な顔になる。
めっちゃこっちを見ているが、注目されているのが首元だとすぐにわかった。
趣味の悪い首輪は、確かにさぞ気になることだろう。言っておくけど、好きでつけてるんじゃないから誤解しないように。
キツネ耳の青年は、少女を庇うように後ろに下げると、俺とデコボココンビの間に割り込むように歩いていてきた。
呆然と突っ立っている俺を背中に庇う形だ。
「これは、隷属の呪具だな。この獣人は、お前たちの所有物か?」
「も、もちろんだ! だが獣人ではない、そいつは人族だ。俺たちが見つけたんだから、俺たちの……」
「人族? どう見ても獣人に見えるが」
「魔術かまじないかは分からないが、俺たちが見つけた時は人族だった。だから、お前らに文句を言われる筋合いはない」
「……だが、首輪は発動していないようだが? 大方ここで偶然遭遇して、素性も確認せず、無理やり首輪をつけたというところか」
うぐっと詰まるデコボココンビは、それでも負けじと食い下がった。
「人族のはぐれは、発見者に所有の権利があるはずだぞ」
「兄貴の言う通りだ。俺たちが見つけた時は確かに人族で……と、途中で姿が変わったが、人族である限りこいつは俺たちのものだ」
「なにを言っているのかわからんが……もし、彼が本当に人族だとして、お前たちのいう権利は発生しない。発見者にあるのは、所有の権利ではない。所有を申請することができる権利だ。つまり、しかるべき場所に連絡をして、各種条件を満たしていると判断されたなら、施設の仲介のもと正式に契約することができる。そもそも、こんな一方的な隷属の首輪をつけている時点で怪しい」
「……く、くそっ!」
焦ったぽっちゃり兄貴が舌打ちをして飛び出すと、有無を言わさず血の付いた指をこちらに押し付けようとしてきた。
嫌な予感がしてのけぞるようにそれを避けたが、同時に「危ない!」とキツネ耳の少女が、俺の身体を腕の中にかばうように抱き込んだ。
女の子に庇われる状況は情けないが、背中はちょっと幸せな感触に包まれた。
『鼻の下伸ばしてる場合か、お前もちゃんと避けろ!』
「なにを! べ、べつに伸ばしてねえよ!」
急に叫んだ俺に、少女はびっくりして手を放した。
怪訝そうな顔でこちらを見る少女に、俺は誤魔化すように笑って剣を構えなおした。やはりこの声は俺にしか聞こえないらしい。
くそう、変な人だと思われたじゃないか!
思わず心の中で抗議したが、後の祭りだ。ともあれ、ケモ耳兄妹の支援で何とか危機を脱したが、向かってくる二人がしつこいのなんの。何しろ一人がイケメン兄貴の相手をしている隙に、ケモ耳妹に庇われている俺の隙を狙って、なんとか首元に指を押し当てようとして来る。
だが、ふたたび動きのよくなった俺と、少女の二人を相手にするには及ばなかったらしく、ついには痺れ切らしたように相方に声を掛けた。
「仕方がない、商品を傷つけたくはないが、やれっ!!」
距離を取った骸骨顔の弟分が、こちらにボール状のものを投げつけてきた。飛んできたそれに、ケモ耳少女は咄嗟に叩き落とすように、ムチのようなものをふるった。
――次の瞬間、辺りはフラッシュのような光と煙に包まれ視界が真っ白になった。
「……うわっ!?」
寸前に見えたのは、ぽっちゃり体形の兄貴と、イケメンキツネ兄貴が、お互いをけん制し合うように押し合いながらこちらに飛び込んでくる姿であった。
「すまない、緊急事態だ! 許せよ」
まばゆい光ともうもうと立ち上る煙に怯んで後退りした俺の耳元で、そんな声がした。気が付くと、二人の盗賊は揃って草むらの方へと弾き飛ばされて、悔しそうにこちらを見上げていた。
目の前にはキツネ耳の青年が立っており、その腕はこちらに伸ばされ、その手は俺の金属の首輪を掴むようにして血の付いた指を押し付けていた。
「あっ、くそ!? やりやがった」
のっぽの骸骨顔が、悔しそうな声を上げる。
自分の首元は見えないが、どうやら今まさに何らかの成約がなされたのだろう。
何かが首を一周するように小さな振動を感じた。首輪にどんな変化が起こったのはわからないが、少なくともゴロツキ達の意にそぐわぬ結果となったのだろう。
盗賊二人に、ケモ耳二人、そして俺。さらに見えないもう一人。
程度の差こそあれ、悲喜こもごもの視線が釘付けになる中、こうして奴隷契約は結ばれてしまったのである。
――異世界へ来て、たったの数時間。
俺は、ケモ耳のイケメン兄さんの奴隷になっちまった。って、本当に誰得だよっ!?
どうせなら、かわいい妹のケモ耳ちゃんならマシだったのに……。
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