蔵書一万冊を多分超えるであろう元書店員のお勧めマンガ

彦猫

その二十二 違国日記  ヤマシタトモコ 祥伝社

 え~、転職してからすっかり本屋に足を運ぶことも少なくなってきた私ですが、孔明のヨメを買いに行ったら、違国日記もこのマンガがすごい!に入ってました。
 しまったよ! 紹介しようとは思ってたのに、出遅れたよ!
 仕方ないけど、今更と言われるかもしれないけど、紹介します。つーか改めて確認したら、既にこのマンガがすごいの常連だった。ドントクライガールは確かに無茶苦茶面白かったもんなあ。
 でも本当に一巻から初版で持ってるんだからね!


 ヤマシタトモコさんは最初の女性向け単行本(BLにはさすがに手が出てない)から、センスが良くてマンガの上手い漫画家だとは思ってましたが、微妙に外れの作品もあったりするんです。
 アフタの連載は外れとは言わないまでも、この人の個性があまりよく出ていない作品だと思ってました。
 しかしこれはヤマシタさんの長期連載作品として、間違いなく当たりだと思うのですよ。


 物語はコミュ障の作家である叔母と、両親を失った姪の同居から始まります。
 簡単に言えば、これは人間関係の繊細さと、少女、そしてコミュ障女性の繊細さのお話です。
 間違いなく優しくはないし、だが偽善に塗れた優しさとは無縁の、人を尊重する叔母。
 人懐っこい面もあるけれど、まだ少女としての面を持ち、どこか傷つきやすい姪。
 二人が徐々にお互いを理解しあいながら、物語は進みます。


 登場人物は皆、主体性があるのも特徴ですかね?
 作家によってはキャラに全く背景を感じない作家もいるんですけど、ヤマシタさんはちゃんと人物を描ける作家です。


 マンガ作品の美点を語るのに、言葉は時に選択がひどく難しくあります。
 しかしながらマンガでマンガの面白さを語ることが出来ない故に、私は文章で語るしかないのです。


 このマンガに存在する空気。コマの空白の部分。
 コマ割、言葉の選択、キャラクターの表情。
 そういった総合的なものでの空間の作り方が、本当に素晴らしいのです。


 まあそういった作品の作りからは、岡崎京子あたりから始まってるのかもしれませんが、勘違いしたオシャレwな作家もいますけどね。
 ああいった勘違いオシャレw作家って、でも細々と生き残ってるんですよね。いや、悪口は……いいか。具体名出してないし。






 この人の作品は、テーマもけっこう面白くて、根が深かったりぶっ飛んでたりします。
 HERに収録の老女のレズビアンの話は独特でしたし、前述のドントクライガールはもう激しく変態。
 もう一度言います。激しく変態。
 サージェスレベルの変態じゃないけど、あんなのは実際にはいないから! ……いないよね?


 違国日記はその意味では、正統派の作品だと言えます。そしてこれがまた面白いんだなあ。
 あえて簡潔に言うなら、純文学的とでも言うんでしょうかね? ちなみにドントクライガールは大衆要素も強い純文学だと思います。変態だけど。


 しかしなんだな、本当に紹介する機会を逸してしまった。
 転職なんてしなければ、というか仕事が忙しくなければ、次の次で紹介する予定だったのに!
 というわけで、権威主義の嫌いな人も、違国日記はお勧めですよ~。

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