蔵書一万冊を多分超えるであろう元書店員のお勧めマンガ

彦猫

外伝その四 ゼーガペイン(アニメ)

 最近はアニメを見ることが少なくなった。マンガを読む量は減っていないので、おそらくアニメという媒体が、受け取る側に固定化された時間で伝えられるのが問題なのだろう。
 もちろん性に合ったアニメや、あまりにもクオリティが高いアニメにはさすがに自然と目がいく。最近では映画であるが「君の名は。」などはそうであった。
 私のアニメに対する情熱が発生したのは「不思議の海のナディア」からである。当時はガイナックスの名前も知らなかった私が、なぜか第一印象で録画を決定し、そしておおいにハマった作品である。
 そしてそれからはセーラームーン、Vガンダムといったお気に入りがあって、エヴァンゲリオンで爆発した。
 エヴァはある意味アニメの歴史を変えた作品であるが、正確に言えば表現の歴史を変えた作品であったとも思う。


 それ以降もナデシコ、まどマギ、グレンラガンなど話題となったアニメはやはり面白く、アニメを見るのに苦労するようになった私を、その世界に連れて行ってくれたものだ。
 ただ上記で挙げた作品は、既に評価がされているものばかりである。ナデシコは一世を風靡した作品であるし、まどマギもある意味表現の世界を変えた作品である。グレンラガンも天元を突破した作品であった。
 そんな中、私が取り上げるのはゼーガペインである。


 ゼーガペイン。これほど作品としての根源的な価値と、一般の評価が乖離している作品もそうはないであろう。
 最近のマンガでは「彼方のアストラ」が、私の中の価値と世間の価値の間にギャプがある作品である。


 さてそのゼーガペイン、なぜ世間一般では評価が低いのであろうか。
 DVDの売り上げも散々であり、「せめて1ゼーガぐらいは売れてくれ」とか言われて、売り上げの最低ラインを区切る単位として揶揄されていたこともある。
 原因としては、キャラデザ、声優、アクションシーンの迫力の無さなど、色々と要因はあるのであろう。
 だが私はこの作品を、早くには切らなかった。何かこの作品に、得体の知れない不気味さを感じ、切れなかったのである。


 そしてそれは正解であった。
 ゼーガペイン。漢字にすれば是我痛となるのであろう。
 この作品においては、痛みというのが重要なものである。いや、それこそがこの作品のテーマであると、タイトルからさえ述べているのだ。
 6話の時点で明かされる世界の謎。なぜかどうしても会えない恋人。すれ違う母親。
 何かがおかしいと感じていたことが、明らかになった。そしてそれで、それまでの全てのクオリティの低さを許せると思った。


 その後に繰り広げられるのは、人間でなくなった人間たちの、必死の抵抗である。
 人間たちは死なない。ただ消えるだけ、会えなくなるだけである。
 それに抗う者たちも、大切な者を失っていく。それは人だけでなく、記憶といったものもそうだ。


 私は、ちょっと気障な……あるいは夢見がちなことを言うが「愛」というのは何かを知っている。
 この作品において語られるのは愛を失うことによる痛み、愛という記憶を失う恐怖だ。
 確かに敵は存在する。それを倒すために、主人公は大切な者を失い、それでも希望が残されている限りは戦い続ける。
 その戦いは最終的には孤独なものとなり、自己犠牲の頂点とも言えるものがそこにある。


 敵を倒すことは、確かに全人類にとっての希望である。だが本質的には、なぜ倒さなければいけないのか、それを考えて視聴すると、この作品は文学的なものにさえ思えてくる。
 クオリティを上げて、脚本や主筋に少し手をかければ、この作品は究極に近い名作になったであろう。
 それは残念であるが、逆にこの作品にある粗さが、作品を唯一無二のものとしているのも確かである。


 あと、EDは素晴らしかった。曲が素晴らしいことも確かであるが、作品のテーマに完全に合致していて、私は一度も飛ばさずに最終話まで見た。


 ゼーガペイン。今ではレンタルすらされている店も少ないだろうが、傑作の一つであると私は思う。


 あ、TSUTAYAを利用するなら、レンタルリクエストで取り寄せは可能かもしれないです。旧作料金よりも高いし、日数もかかってしまいますが、たぶん大丈夫。
 もしもこの作品を見て、何か感じるものがあれば、感想に書いていただけたら幸いです。

コメント

コメントを書く

「エッセイ」の人気作品

書籍化作品