旦那様は魔王様

狭山ひびき

12

シヴァが地下へと続く階段を下りていたころ、沙良はゼノと二人でティータイムをすごしていた。

沙良が一人は怖いと言ったこともあり、シヴァが、自分が沙良のそばを離れるときはゼノにそばにいるように、と命じてくれたようであるが、沙良は、見た目は少し怖いこの老人に、すっかり気を許していた。

生まれてこの方、祖父という存在に会ったことのない沙良が、ゼノに祖父像を重ねてしまうのは仕方がないことかもしれない。

ゼノの方も、長年仕えている魔王が突然嫁と言って連れてきた沙良のことを、孫娘を見るような気持で接していた。

そのため、お菓子を挟んでのティータイムは、自然と和やかなものになる。

「おやおや、それで、またシヴァ様と一緒に温泉に入ったのですか」

「そうなんです! 一緒は恥ずかしいって言ったのに、シヴァ様、全然聞いてくれないんですよ!」

「困ったものですねぇ」

「そうでしょう!?」

ティータイムのお菓子はシフォンケーキだった。生クリームが添えられたシフォンケーキが、沙良の口の中にどんどん消えていく。

「しかし、また白い人影を見られたんですね。この離宮のメイドは紺のお仕着せですし、白い服を着た女性は、いないはずなんですがね……」

「やっぱり、お化けですよね……」

沙良の声がしぼむ。怯えた子ウサギのような目をむけられて、ゼノは慌てて首を振った。

「いえいえ、この離宮に、お化けなどは……」

ゼノが「お化けなどはいないはずだ」と言いかけたとき、どこかからガタン! と大きな物音がした。

沙良の肩がびくりと揺れる。

ゼノは不思議そうに部屋の入口を見てから、沙良に微笑みかけた。

「おそらく風でなにかが倒れたんでしょう」

風と聞いて、沙良はほっと息を吐いた。だが―――

バターン!

直後、部屋の扉が勢いよく開いた。

息を呑んだ沙良が見たものは、真っ白いワンピース姿の、蜂蜜色の髪をした少女の姿だった。

彼女は波打つ長い髪を振り乱し、なぜか片手に木の杭を持っていた。

少女は血走った眼を沙良とゼノに向けて、言った。

「あの人は、どこ!?」

沙良はその鬼気迫った様子に、大きく息を吸い込み、

「きゃああああああ―――!」

悲鳴を上げた。

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