旦那様は魔王様
6
「お化け、でございますか?」
夕食後。
用事があると言ってシヴァが部屋を出て行くと、部屋に一人取り残されるのが怖かった沙良は、シヴァの寝酒を持ってやって来たゼノを話し相手として捕まえた。
ゼノは沙良のためにカモミールティーを煎れてくれている。
沙良がお風呂で白いお化けを見たと言うと、ゼノは琥珀色の目を丸くした。
「残念ながら、長らくこの離宮の管理をしておりますが、お化けに出会ったことはございませんねぇ」
沙良にカモミールティーを差し出して、ゼノは沙良の真向かいのソファに腰を下ろす。
沙良が両手でカップを持って、フーフーと息を吹きかけてお茶の温度を冷ましている様子を微笑まげに眺めながら、
「温泉で見られた白い影は、もしかしたら、鳥か何かを見間違えられたのでは?」
「鳥……」
鳥にしては大きかったと思うが、シヴァに引き続きゼノにまで否定されると、一気に自信がなくなってくる。
お化けが本当にいたら怖いので、いないならそれに越したことはないのだが、温泉で見たあの白い影が何なのかが引っかかってもやもやした。
難しい顔をして考え込んでしまった沙良を見て、ゼノは話題を変えた。
「それはそうと、温泉はいかがでしたか?」
沙良はパッと表情を明るくした。
「すごく気持ちよかったです!」
「それはようございました」
「でも……」
「でも?」
「……混浴なのは、聞いてなかったです」
眉をハの字にして困った顔をした沙良に、ゼノはくっと吹き出した。
「おやおや」
「シヴァ様がいきなり入ってきて、びっくりしました」
「仲がよろしいことで、いいではありませんか」
「よくないですー」
沙良は頬を膨らませた。
「シヴァ様も、黙って入ってくるのはひどいと思います! 一緒にお風呂は恥ずかしいです。そのあとだって……」
沙良が気絶したのが悪いのかもしれないが、裸を見られたのは恥ずかしすぎる。
赤くなってぷりぷり怒りはじめた沙良を、ゼノはまるで孫娘を見るような優しい目つきで見つめた。
「シヴァ様は女性の心の機微に疎いところがございますからねぇ」
「そうなんです!」
予期せぬ同意が得られて、沙良は俄然勢いづいた。
「シヴァ様ったら、ひどいんですよ! この前だって、ミリー……ミリアムにちょっとした悪戯をされて、ちょっと大変な服を着せられたんですけど、シヴァ様ったら、逃げたかったのに無理やり捕まえるし。離してくれないし! 数日前だって、いきなり部屋の外から出るなーって言いだすし!」
「おやおやおや」
ゼノは楽しそうにくすくすと笑う。
「シヴァ様は優しいけど、たまにちょっと意地悪なんです!」
沙良が胸の前で拳を握りしめてそう締めくくると、ゼノは笑いながら沙良のためにカモミールティーのおかわりを煎れはじめた。
そうして、沙良のティーカップにカモミールティーを注ぎながら、カモミールの香りのように優しい声で言う。
「シヴァ様の奥方と聞いて、どんな方かと思いましたが、安心しました」
「え?」
今の話のどこに安心させる要素があったのだろうか。
首をひねる沙良に、ゼノは小さく頭を下げた。
「シヴァ様を、よろしくお願いいたしますね」
夕食後。
用事があると言ってシヴァが部屋を出て行くと、部屋に一人取り残されるのが怖かった沙良は、シヴァの寝酒を持ってやって来たゼノを話し相手として捕まえた。
ゼノは沙良のためにカモミールティーを煎れてくれている。
沙良がお風呂で白いお化けを見たと言うと、ゼノは琥珀色の目を丸くした。
「残念ながら、長らくこの離宮の管理をしておりますが、お化けに出会ったことはございませんねぇ」
沙良にカモミールティーを差し出して、ゼノは沙良の真向かいのソファに腰を下ろす。
沙良が両手でカップを持って、フーフーと息を吹きかけてお茶の温度を冷ましている様子を微笑まげに眺めながら、
「温泉で見られた白い影は、もしかしたら、鳥か何かを見間違えられたのでは?」
「鳥……」
鳥にしては大きかったと思うが、シヴァに引き続きゼノにまで否定されると、一気に自信がなくなってくる。
お化けが本当にいたら怖いので、いないならそれに越したことはないのだが、温泉で見たあの白い影が何なのかが引っかかってもやもやした。
難しい顔をして考え込んでしまった沙良を見て、ゼノは話題を変えた。
「それはそうと、温泉はいかがでしたか?」
沙良はパッと表情を明るくした。
「すごく気持ちよかったです!」
「それはようございました」
「でも……」
「でも?」
「……混浴なのは、聞いてなかったです」
眉をハの字にして困った顔をした沙良に、ゼノはくっと吹き出した。
「おやおや」
「シヴァ様がいきなり入ってきて、びっくりしました」
「仲がよろしいことで、いいではありませんか」
「よくないですー」
沙良は頬を膨らませた。
「シヴァ様も、黙って入ってくるのはひどいと思います! 一緒にお風呂は恥ずかしいです。そのあとだって……」
沙良が気絶したのが悪いのかもしれないが、裸を見られたのは恥ずかしすぎる。
赤くなってぷりぷり怒りはじめた沙良を、ゼノはまるで孫娘を見るような優しい目つきで見つめた。
「シヴァ様は女性の心の機微に疎いところがございますからねぇ」
「そうなんです!」
予期せぬ同意が得られて、沙良は俄然勢いづいた。
「シヴァ様ったら、ひどいんですよ! この前だって、ミリー……ミリアムにちょっとした悪戯をされて、ちょっと大変な服を着せられたんですけど、シヴァ様ったら、逃げたかったのに無理やり捕まえるし。離してくれないし! 数日前だって、いきなり部屋の外から出るなーって言いだすし!」
「おやおやおや」
ゼノは楽しそうにくすくすと笑う。
「シヴァ様は優しいけど、たまにちょっと意地悪なんです!」
沙良が胸の前で拳を握りしめてそう締めくくると、ゼノは笑いながら沙良のためにカモミールティーのおかわりを煎れはじめた。
そうして、沙良のティーカップにカモミールティーを注ぎながら、カモミールの香りのように優しい声で言う。
「シヴァ様の奥方と聞いて、どんな方かと思いましたが、安心しました」
「え?」
今の話のどこに安心させる要素があったのだろうか。
首をひねる沙良に、ゼノは小さく頭を下げた。
「シヴァ様を、よろしくお願いいたしますね」
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