旦那様は魔王様

狭山ひびき

3

昨夜――

沙良の夜着を選ぶと言い出したミリアムに意見を聞かれ「紫」と答えたまではよかった。

これで妻も満足し、心行くまでイチャイチャできる――、アスヴィルはそう思っていたのに。

ぱあっと顔を輝かせた妻は、何を思ったのか突然起き上がり、いそいそと部屋の隅に移動した。

「ミリアム……?」

アスヴィルも妻を追いかけようかと悩んで上体を起こしたが、ベッドを出る前に、愛する妻はその細腕に数冊の分厚いカタログを抱えて戻ってきた。

「そうよね、紫も可愛いわよねぇ! でも、重要なのは、ラインよ! そう、いかに体のラインがきれいに出るか! ねえ、そう思わない?」

言われて、アスヴィルは無言で妻の姿を見た。

ミリアムは今、体のラインぴったりの黒のスリップドレス姿だ。大きく開いた胸元と背中のラインが魅力的である。ばっちり見える胸の谷間など、文句のつけどころはどこにもない。――最高だ。今すぐ顔をうずめたい。

そのため、アスヴィルはミリアムの意見にうっかり賛同してしまった。

「そうだな」

そして、すぐさま後悔した。

ベッドの上にばさっとカタログを広げたミリアムは、星をちりばめたかのように瞳を輝かせて、こう言った。

「そうでしょう!? ラインは重要なのよ! これでお兄様と沙良ちゃんの仲も進展するってものよね? 沙良ちゃんのため、最高の夜着を選びましょう!!」

その後、ミリアムにつき合わされたアスヴィルは、延々と女物の夜着やら下着やらが載ったカタログと睨めっこをする羽目となり、途中で眠くなったミリアムがうとうとしはじめ、結局、これっぽっちもイチャイチャできなかったのだった。

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