旦那様は魔王様

狭山ひびき

17

ミリーは目の前の温室の扉を蹴破った。

慌てて追いかけてきたアスヴィルがミリーに続いて、壊れた温室の扉をくぐる。

「見つけましたよぉ、この性悪女ぁあああああ!」

ミリーが乱入するまで、優雅に温室で午後のティータイムを楽しんでいた女は、ミリーの鬼のような形相に「ひっ!」と悲鳴を上げてのけぞった。

「待て、落ち着け!」

今にも目の前の金髪の女に飛びかからんとするミリーを、アスヴィルが背後から羽交い絞めにする。

「なにするんですか! 離しなさいっ! いくらあなたでも許しませんよ!」

背の高いアスヴィルに背後から抱きかかえられるように持ち上げられて、ミリーは手足をバタバタとばたつかせて暴れる。

アスヴィルは暴れるミリーを肩に担いで、目の前で顔を引きつらせている金髪の女に向き合った。

「邪魔をしたな。だが、今回はやりすぎだ。シヴァ様も黙ってないぞ」

淡々とアスヴィルが告げたが、女はすっとぼけた。

「な、なんのことですの?」

「沙良を閉じ込めただろう」

「存じ上げませんわ」

「……今、シヴァ様が迎えに行っている」

それを聞いて、女は大きく目を見開いた。

「なんですって……?」

とぼけていたことも忘れて立ち上がる。

その拍子に紅茶のカップが下に落ちて割れたが、小刻みに震えはじめた女は気にも留めなかった。

「なぜ……。なぜ、シヴァ様が迎えに行くんですの? あんな貧相な小娘を、どうしてシヴァ様が直々に迎えに行くんですの!?」

相当腹が立ったのか、女は温室の椅子を蹴飛ばした。

「なんなんですの、あの女! 地下牢に閉じ込めるなんて生ぬるいことをせずに、この手で引き裂いてやればよかった……っ」

忌々し気に吐き捨てる女に、アスヴィルが「あ」と思ったときは遅かった。

肩に担ぎあげられて一時はおとなしくなったミリーであるが、女のその一言にブチ切れた。

アスヴィルの腕を振りほどいて肩から飛び降りたミリーは、悪鬼のような形相で、パキポキと指を鳴らした。

「いい度胸だ、この性悪女ぁああああ!」

もはや、ぎりぎり保っていた敬語もかなぐり捨てている。

止めることを諦めたアスヴィルはそっとため息をついた。

「もういい、満足いくまで好きにしろ」

ややして、女の絶叫が温室中にこだました――

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