悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~

狭山ひびき

町の人と交流します! 8

 ――フリーデリックはイラついていた。

 空がようやく白みはじめた早朝、何やら城の外が騒がしいと思って目が覚めたフリーデリックが部屋の外に出ると、ちょうど従僕が血相を変えて走ってくるところだった。

「旦那様! 大変です! 町の、町の人が門のところに押し寄せてきました!」

「なんだって!? どういうことだ!」

「それが……、アリシア様を出せと、大騒ぎなのです……」

 従僕は額の汗をぬぐいながら、「もしかしたら、アリシア様の例の噂を聞きつけてこられたのかもしれません……」と告げる。

 フリーデリックはチッと舌打ちをすると、一度部屋に戻り、手早く服を着替えると、ベッド脇に立てかけていた剣を取った。

「門は絶対に開けるな! それから、アリシアには絶対に知らせるな! きっと、耳にしたら落ち込んでしまう」

「わかっています! 門のところには門番たちがいます。私はほかの者たちを起こしてまいります!」

 それがいいだろう。兵士でもない町人くらい、フリーデリック一人でどうとでもなるが、もしも暴れられた場合、彼では手加減ができない。

 まだこちらへ引っ越してきたばかりで、使用人たちもそれほど多く雇っているわけではないが、それでも人数で太刀打ちできないとわかれば、町人も一度引いてくれるかもしれないと思ったのだ。

 フリーデリックはアリシアを守るためならどんなことでもすると決めているが、できれば町の住民を傷つけたくはない。アリシアも望まないはずだ。

(とにかく、アリシアが起きてくる前に、早く追い返さなくては。アリシアはきっと傷ついてしまう)

 フリーデリックは焦燥に駆られて、階段を駆け下りると、広い庭を走り抜ける。

 門までたどり着けば、閉められている頑丈な鉄格子の門を挟んで、集まってきた門番や使用人と、町人とが言い合いを続けていた。

「いいから、アリシア様に会わせてくれ!」

「だめに決まっているだろう! だいたい何時だと思っているんだ!」

「俺は急いでいるんだ!」

「そうだよ! あたしも急いでいるんだよ!」

「あんたらじゃ話にならないんだ、とにかくアリシア様を呼んでくれ!」

「だから、駄目だと言っているだろう!」

 フリーデリックは剣を握りしめたまま、眉を寄せた。

 予想していたのとは、どうも雲行きが違いそうだ。

「……何の騒ぎなんだ?」

 フリーデリックが門番たちのうしろから声をかければ、彼らの視線が一斉にフリーデリックに向かった。

「旦那様! こいつらがアリシア様を出せって」

「領主様、この人たちがアリシア様に会わせてくれないんだよ!」

「とにかく、いったん落ち着いてくれ。まず、説明を――」

「ああ! アリシア様だ!」

 フリーデリックが説明を求めたそのとき、町の人の一人が声をあげた。

 まさかと思って振り返ると、アリシアがちょうど城の外に出たところだった。

(どうして、アリシアが……)

 起こすなと言ったのに。知らせるなと言ったのに。

 フリーデリックが愕然とする中、アリシアがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 その表情はどこか強張っていて、フリーデリックは彼女に駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られた。

 しかし、フリーデリックが抱きしめようとしても、アリシアはきっと拒絶するだろう。

 城へ戻れと言っても、彼女はきっと聞いてくれない。

 フリーデリックはただ、彼女がこちらへ歩いてくるのを見守ることしかできないのだ。

「何の騒ぎですの?」

 フリーデリックは、アリシアの語尾が微かに震えていることに気がついた。美しい紫色の瞳が、不安そうに揺れている。

 彼女を抱きしめたくても抱きしめられないフリーデリックは、拳を握りしめて彼女を見つめた。

 もしも――、誰かがアリシアの心を傷つけることがあったら、絶対に許さない。

 そんな思いで口を引き結んでいると、町人の一人が門の鉄格子を握りしめて叫んだ。

「アリシア様! 子供が熱を出したんだ! 助けておくれよ!」

「―――は?」

 フリーデリックは思わず耳を疑った。

 門番や使用人も唖然とする中、アリシアが驚いたように目を丸くする。

 フリーデリックは町人とアリシアを交互に見やって、もう一度言った。

「はあ?」

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