悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
町の人と交流します!5
ザザン……と波が打ち寄せる。
これから夏に向かう海は、日差しを反射してキラキラと輝いていた。
空に雲は少なく、海と空の境界も曖昧になるほど真っ青だ。
フリーデリックと並んでサンドイッチを食べる。
海の音に交じってカモメの鳴く声も響き、遠くから町の音も聞こえてくるが、周りに人がいないせいか、音はするのに妙な静寂を感じてしまう。
(診療所……か)
アリシアは先ほどのクララの診療所が気になって仕方ない。
アリシアは前世で看護師だった。クララの診療所に消毒液の匂いはしないが、懐かしく感じてしまうのは、アリシアの前世が関係しているのかもしれない。
懐かしくて、どうしても手を出したくなってしまう。
幸せとは言い難い前世だったが、仕事だけは、望んだ仕事に就くことができた。
その好きな仕事が多忙すぎて体調を崩したり、プライベートの時間もろくに取れなかったけれど、仕事をしているときだけは幸せだったと思う。
(あんな設備じゃ、せいぜいかすり傷の手当てくらいしかできないわ……)
半年前に祖父から継いだというクララの知識量も気になる。
もしも重病人が出たらどうなるのだろうか。この国の医療がそれほど発達していないことはアリシアも知っていたが、だからこそ、気になるのかもしれない。
「アリシア……嬢。食が進んでいないが、大丈夫か?」
食べかけのサンドイッチを持ったまま考え込んでしまっていた。フリーデリックに話しかけられてアリシアはハッとする。
顔をあげれば、心配そうな顔がすぐ近くにあった。今日の空と同じで、吸い込まれそうなほどの青に息を呑む。ドキリと鳴った心臓は、きっと驚いたからだ。ときめきじゃない。
「今日は風が冷たいからな。体が冷えたか? 城に戻ろうか?」
「大丈夫ですわ。考え事をしていただけです」
「考え事?」
「……さっきの、男の子のことですわ」
嘘ではない。診療所が一番気になっていたが、怪我をした男の子のことも気がかりだった。大きなけがではなかったが、できれば走り回らずに、せめて今日くらいは安静にしていてほしいものだ。
アリシアが答えると、フリーデリックの双眸が、なぜか柔らかく細められる。
「優しいな」
「……このくらい、普通ですわ」
「いや、アリシア……嬢は、優しいよ」
優しく微笑まれて、アリシアの心臓がドキドキしはじめる。
これは演技だ、嘘だと思うのに――、フリーデリックが本心からそう告げているような気がしてしまい、どうしていいのかわからない。
「あなたに何がわかりますの?」
つっけんどんに返してしまっても、フリーデリックは微笑んだままだった。
(なんでそんな顔をするのよ)
アリシアはぷいっとフリーデリックに背を向けると、食べかけのサンドイッチにかぶりつく。
背中にフリーデリックの視線を感じるせいか、アリシアの心臓はしばらく落ち着かなかった。
これから夏に向かう海は、日差しを反射してキラキラと輝いていた。
空に雲は少なく、海と空の境界も曖昧になるほど真っ青だ。
フリーデリックと並んでサンドイッチを食べる。
海の音に交じってカモメの鳴く声も響き、遠くから町の音も聞こえてくるが、周りに人がいないせいか、音はするのに妙な静寂を感じてしまう。
(診療所……か)
アリシアは先ほどのクララの診療所が気になって仕方ない。
アリシアは前世で看護師だった。クララの診療所に消毒液の匂いはしないが、懐かしく感じてしまうのは、アリシアの前世が関係しているのかもしれない。
懐かしくて、どうしても手を出したくなってしまう。
幸せとは言い難い前世だったが、仕事だけは、望んだ仕事に就くことができた。
その好きな仕事が多忙すぎて体調を崩したり、プライベートの時間もろくに取れなかったけれど、仕事をしているときだけは幸せだったと思う。
(あんな設備じゃ、せいぜいかすり傷の手当てくらいしかできないわ……)
半年前に祖父から継いだというクララの知識量も気になる。
もしも重病人が出たらどうなるのだろうか。この国の医療がそれほど発達していないことはアリシアも知っていたが、だからこそ、気になるのかもしれない。
「アリシア……嬢。食が進んでいないが、大丈夫か?」
食べかけのサンドイッチを持ったまま考え込んでしまっていた。フリーデリックに話しかけられてアリシアはハッとする。
顔をあげれば、心配そうな顔がすぐ近くにあった。今日の空と同じで、吸い込まれそうなほどの青に息を呑む。ドキリと鳴った心臓は、きっと驚いたからだ。ときめきじゃない。
「今日は風が冷たいからな。体が冷えたか? 城に戻ろうか?」
「大丈夫ですわ。考え事をしていただけです」
「考え事?」
「……さっきの、男の子のことですわ」
嘘ではない。診療所が一番気になっていたが、怪我をした男の子のことも気がかりだった。大きなけがではなかったが、できれば走り回らずに、せめて今日くらいは安静にしていてほしいものだ。
アリシアが答えると、フリーデリックの双眸が、なぜか柔らかく細められる。
「優しいな」
「……このくらい、普通ですわ」
「いや、アリシア……嬢は、優しいよ」
優しく微笑まれて、アリシアの心臓がドキドキしはじめる。
これは演技だ、嘘だと思うのに――、フリーデリックが本心からそう告げているような気がしてしまい、どうしていいのかわからない。
「あなたに何がわかりますの?」
つっけんどんに返してしまっても、フリーデリックは微笑んだままだった。
(なんでそんな顔をするのよ)
アリシアはぷいっとフリーデリックに背を向けると、食べかけのサンドイッチにかぶりつく。
背中にフリーデリックの視線を感じるせいか、アリシアの心臓はしばらく落ち着かなかった。
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