【電子書籍化、コミカライズ】悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~
プロローグ1
苦労して生きた分、生まれ変わったら幸せになれるよと誰かが言った。
けれど、転生した先はもっと悲惨な人生だったとその人に教えたら、前世で必死にわたしを慰めてくれたその人は、どんな顔をするのだろうか。
もっとも――、もう、その人の顔も覚えていないけれど――
アリシア・フォンターニアは断崖絶壁の上に立つ、鉄で作られた十字架を見てため息をついた。
絶望――そんな言葉はもうずっと前に消え失せて、心の中にあるのは、凪いだ水面のように静かな諦めだ。
(転生して幸せになれるなんて、前世で読んだ漫画の中だけの話だったわね……)
アリシアは青い空を見上げて、これまでの十七年の人生を振り返った。
アリシア・フォンターニアは、リニア王国の公爵令嬢として十七年前に生を受けた。
生まれたときは、記憶はまっさらなままだった。アリシアはただのアリシアとして生きていた。
だが、十歳になったころだろうか。変な夢を見た。
その夢は、こことは違うどこか遠くの異国で、見たこともない建物が立ち、見たこともない乗り物が動いていた。
空の青は少し濁っていて、ひどい喧騒と驚くほどの便利がそろった、不思議な国だった。
アリシアはそこで茉莉花と呼ばれていた。年は今よりも一回りくらい上だった。
そして――、茉莉花が車という鉄の塊にひき殺されてしまった直後、アリシアは飛び起きたのだ。
飛び起きたときの殴られたような衝撃を今も覚えている。
脳がパンクしそうなほどの膨大な情報。アリシアは、自分が前世で茉莉花と呼ばれていたこと、死んで転生したことをすべて理解した。
しかし――
それよりももっと衝撃だったのは、ここの世界が、生前はまっていた小説の中の世界だったことだ。
そう、アリシアは小説の中に転生していたのだ。
そして、よりにもよって、その小説の中で王女を妬み、殺害しようとする悪徳令嬢に転生していたのである。
そこから今までの七年間は絶望の毎日だった。
アリシアは自分が悪徳令嬢や魔女と罵られた小説の登場人物に転生したことを知ると、ひたすらそのフラグを回避しようとがんばった。
なぜなら、アリシア自身はその王女に全く恨みも妬みも持っていないのだ。
小説の中では、アリシアが十四歳、王女ユミリーナが十三歳のころ、城で開かれた隣国の王子の歓迎会で、アリシアがその王子に一目ぼれしてしまったことでユミリーナとの関係が悪化する。
隣国の王子は、最初アリシアに気があるそぶりを見せ、婚約手前まで行ったというのに、あっさりとユミリーナに鞍替えするのだ。
こういう言い方をしたらとんでもない王子のように聞こえるのだが――、そこはもちろん、小説の中ではきちんとした理由が描かれて、本来の主人公であるユミリーナとの美しい恋愛模様が語られる。
簡単に言えば、アリシアの性格の悪さに辟易した王子は、心優しく成長したユミリーナを愛してしまったのである。悪徳令嬢に騙されていた王子は、美しく心優しい王女との真実の愛に気づき、二人は死ぬまで幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん、という、おとぎ話とかにありがちなストーリーだった。
そして、王子に捨てられたアリシアはユミリーナを恨み、あの手この手で殺害しようと試みて、最後は悪徳令嬢と呼ばれて処刑されるのだ。
それを知っていたアリシアは、まず、王子の歓迎会に仮病を使って欠席することにした。
一番の元凶は王子だ。王子に会わなければアリシアは悪徳令嬢としての人生を送ることなく、生涯平穏に過ごせるはず――、そう思ったのだが、甘かった。
フラグはどこまでもフラグだった。
歓迎会を欠席した翌日、なぜかユミリーナが王子を伴って、アリシアのお見舞いに来たのである。
まったく、意味がわからない!
もちろんアリシアはあたりさわりのない話を少ししたのち、気分が優れないと二人を追い返した。
王子に一目ぼれなんて、当然ない。
確かに金髪のイケメンだったが、アリシアはもともと小説の中で描かれていた王子は好きになれなかったので、一目ぼれする要素がどこにもなかった。
なので、想定外のことは起こったが、これで悪徳令嬢としてのフラグはへし折れた――はずだったのに。
もう、ここからが散々だった。
アリシアは王子に一目ぼれなんてしていないが――、なんと、王子がアリシアに一目ぼれしてしまったのだ。
とにかくフラグを回避したいアリシアは全力で王子を避けた。それがまずかった。
プライドの高い王子は、アリシアに拒絶されたことで怒り、よりにもよって、アリシアが自分に惚れていて、ユミリーナを邪魔に思い、危害を加えようとしているというとんでもないでたらめを吹聴しはじめたのだ。
まったく、本来は小説の中のヒーローのくせして、とんでもない王子である。
おかげでアリシアは瞬く間に「悪徳令嬢」と呼ばれる羽目になったのだ。
けれども、アリシアは抵抗した。
今度は、とにかくユミリーナに近づかなければいい、近づかなければ危害を加えようとしているなどと言われないだろうと、とにかく彼女を避け続けた。
王都から離れ、一年のほとんどをカントリーハウスですごし、とにかくユミリーナの存在を避けまくった。
けれども、結果は変わらなかった。
ユミリーナが風邪をひくたびにアリシアの呪いと言われ、誰かがユミリーナの食事に毒を盛ると、遠く離れたアリシアが雇った刺客だとささやかれた。
とにかく、ユミリーナの身に何かがあるたびにアリシアが疑われる。
そして、小説の中でアリシアに狙われ続けるからだろうか――、ユミリーナはとにかく危険に巻き込まれやすい体質だった。
結果、気がついた時にはアリシアは悪徳令嬢だ魔女だと兵士に追い回されるようになり――、今、こうして最期の時をむかえようとしている――
けれど、転生した先はもっと悲惨な人生だったとその人に教えたら、前世で必死にわたしを慰めてくれたその人は、どんな顔をするのだろうか。
もっとも――、もう、その人の顔も覚えていないけれど――
アリシア・フォンターニアは断崖絶壁の上に立つ、鉄で作られた十字架を見てため息をついた。
絶望――そんな言葉はもうずっと前に消え失せて、心の中にあるのは、凪いだ水面のように静かな諦めだ。
(転生して幸せになれるなんて、前世で読んだ漫画の中だけの話だったわね……)
アリシアは青い空を見上げて、これまでの十七年の人生を振り返った。
アリシア・フォンターニアは、リニア王国の公爵令嬢として十七年前に生を受けた。
生まれたときは、記憶はまっさらなままだった。アリシアはただのアリシアとして生きていた。
だが、十歳になったころだろうか。変な夢を見た。
その夢は、こことは違うどこか遠くの異国で、見たこともない建物が立ち、見たこともない乗り物が動いていた。
空の青は少し濁っていて、ひどい喧騒と驚くほどの便利がそろった、不思議な国だった。
アリシアはそこで茉莉花と呼ばれていた。年は今よりも一回りくらい上だった。
そして――、茉莉花が車という鉄の塊にひき殺されてしまった直後、アリシアは飛び起きたのだ。
飛び起きたときの殴られたような衝撃を今も覚えている。
脳がパンクしそうなほどの膨大な情報。アリシアは、自分が前世で茉莉花と呼ばれていたこと、死んで転生したことをすべて理解した。
しかし――
それよりももっと衝撃だったのは、ここの世界が、生前はまっていた小説の中の世界だったことだ。
そう、アリシアは小説の中に転生していたのだ。
そして、よりにもよって、その小説の中で王女を妬み、殺害しようとする悪徳令嬢に転生していたのである。
そこから今までの七年間は絶望の毎日だった。
アリシアは自分が悪徳令嬢や魔女と罵られた小説の登場人物に転生したことを知ると、ひたすらそのフラグを回避しようとがんばった。
なぜなら、アリシア自身はその王女に全く恨みも妬みも持っていないのだ。
小説の中では、アリシアが十四歳、王女ユミリーナが十三歳のころ、城で開かれた隣国の王子の歓迎会で、アリシアがその王子に一目ぼれしてしまったことでユミリーナとの関係が悪化する。
隣国の王子は、最初アリシアに気があるそぶりを見せ、婚約手前まで行ったというのに、あっさりとユミリーナに鞍替えするのだ。
こういう言い方をしたらとんでもない王子のように聞こえるのだが――、そこはもちろん、小説の中ではきちんとした理由が描かれて、本来の主人公であるユミリーナとの美しい恋愛模様が語られる。
簡単に言えば、アリシアの性格の悪さに辟易した王子は、心優しく成長したユミリーナを愛してしまったのである。悪徳令嬢に騙されていた王子は、美しく心優しい王女との真実の愛に気づき、二人は死ぬまで幸せに暮らしましたとさ、ちゃんちゃん、という、おとぎ話とかにありがちなストーリーだった。
そして、王子に捨てられたアリシアはユミリーナを恨み、あの手この手で殺害しようと試みて、最後は悪徳令嬢と呼ばれて処刑されるのだ。
それを知っていたアリシアは、まず、王子の歓迎会に仮病を使って欠席することにした。
一番の元凶は王子だ。王子に会わなければアリシアは悪徳令嬢としての人生を送ることなく、生涯平穏に過ごせるはず――、そう思ったのだが、甘かった。
フラグはどこまでもフラグだった。
歓迎会を欠席した翌日、なぜかユミリーナが王子を伴って、アリシアのお見舞いに来たのである。
まったく、意味がわからない!
もちろんアリシアはあたりさわりのない話を少ししたのち、気分が優れないと二人を追い返した。
王子に一目ぼれなんて、当然ない。
確かに金髪のイケメンだったが、アリシアはもともと小説の中で描かれていた王子は好きになれなかったので、一目ぼれする要素がどこにもなかった。
なので、想定外のことは起こったが、これで悪徳令嬢としてのフラグはへし折れた――はずだったのに。
もう、ここからが散々だった。
アリシアは王子に一目ぼれなんてしていないが――、なんと、王子がアリシアに一目ぼれしてしまったのだ。
とにかくフラグを回避したいアリシアは全力で王子を避けた。それがまずかった。
プライドの高い王子は、アリシアに拒絶されたことで怒り、よりにもよって、アリシアが自分に惚れていて、ユミリーナを邪魔に思い、危害を加えようとしているというとんでもないでたらめを吹聴しはじめたのだ。
まったく、本来は小説の中のヒーローのくせして、とんでもない王子である。
おかげでアリシアは瞬く間に「悪徳令嬢」と呼ばれる羽目になったのだ。
けれども、アリシアは抵抗した。
今度は、とにかくユミリーナに近づかなければいい、近づかなければ危害を加えようとしているなどと言われないだろうと、とにかく彼女を避け続けた。
王都から離れ、一年のほとんどをカントリーハウスですごし、とにかくユミリーナの存在を避けまくった。
けれども、結果は変わらなかった。
ユミリーナが風邪をひくたびにアリシアの呪いと言われ、誰かがユミリーナの食事に毒を盛ると、遠く離れたアリシアが雇った刺客だとささやかれた。
とにかく、ユミリーナの身に何かがあるたびにアリシアが疑われる。
そして、小説の中でアリシアに狙われ続けるからだろうか――、ユミリーナはとにかく危険に巻き込まれやすい体質だった。
結果、気がついた時にはアリシアは悪徳令嬢だ魔女だと兵士に追い回されるようになり――、今、こうして最期の時をむかえようとしている――
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