夢の中でも愛してる
帰還 3
アーチを描く高い天井には、女神と天使の絵が描かれていた。
何百人と入れそうなほど広い大聖堂は今は一般人の立ち入りを禁止されているため、一つの足音すら大きく響いて聞こえるほど静かである。
きゅっと身がしまるような神聖な雰囲気の中、遥香はクロードと並んで、案内を務める司祭の話を聞いていた。
今日は、結婚式の会場となる大聖堂で、当日の配置や手順について話を聞くためにやってきたのだ。
結婚式まで、あと二週間。
大聖堂に来るのは、結婚式当日まで、後にも先にもこれが最後だ。
手順を覚えられないかもしれないと不安になる遥香の隣で、クロードが笑って、小声でささやいた。
「大丈夫だ。ざっくりした流れだけ覚えておけ。なんとかなる」
本当だろうか。
隣を歩くクロードは余裕そうだが、遥香はもはや緊張で頭が真っ白になりそうだ。
クロードとともに赤い絨毯の上をゆっくりと進んでいく。
祭壇のうしろには大きな女神像があり、それは優しい微笑みをたたえてこちらを見下ろしていた。
(きれいなところ……)
純白の豪華なドレスを着て、今日と同じようにこの絨毯の道を進んでクロードと結婚式を挙げるなんて、正直まだ実感がない。
隣に立つのが弘貴だったなら、また違った心境だっただろう。
自分のことなのにどこか他人事で、でもものすごく不安だった。
「当日は俺のことだけを見ていればいい。周りは見るな。いいな?」
参列席の多さに身のすくむような思いをしていると、クロードが耳打ちする。
遥香はクロードを見上げて、小さく微笑んで、口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。
「こちらで誓いを立てていただいたのち、証書にサインしていただきます」
初老の司祭は祭壇の上に立ち、当日の流れを一通り説明してくれる。お互いが女神に結婚の誓いを立て、参列者から異議の申し立てがない場合、証書にサインをして結婚が成立するそうだ。
司祭は説明を終えると、大聖堂の中を見て回っていいと言ってくれた。
クロードは忙しいが、今日はこのために時間をあけてくれているので、急いで城へ戻る必要もない。
せっかくだから少し見て回るかとクロードが言い、遥香は彼とともに大聖堂の中を見て回ることにした。
司祭は出口で待っていると聖堂の中から出て行ったので、広い聖堂の中でクロードと二人きりになる。
「大丈夫そうか?」
他人の目がなくなると、クロードが苦笑しながら訊ねてきた。
遥香は首を横に振って、肩をすくめる。
「当日、なにか間違えそうで怖いわ……」
「多少間違ったところで、誰も気がつかないだろう」
「そうかしら……」
「そうだ。気楽に構えていたらいい。結婚の誓いで『否』さえ言わなければ、たとえお前がその辺で転ぼうと俺は気にしない」
クロードが笑って冗談を言うので、遥香も思わず笑ってしまう。
「見て、壁にもレリーフが彫られているのね」
祭壇の横の壁に掘られたレリーフ見つけて、遥香が興味を示して近づいたときだった。
(あれ、このレリーフ、どこかで……)
どこかで見たことのあるレリーフだと思ったその時、遥香の左手の指輪がピカっと強い光を放った。
驚いて指輪を見つめると、光はすぐに収まって、そのあとは何の反応も示さない。
「……クロード」
クロードもその光には気がついたようで、眉間に皺を寄せると、じっと指輪に視線を注いでいた。
「その指輪が光るときは、今までの経験上、あちらの世界に関係するときだけだ」
遥香は頷くと、指輪を見て、それから天使のレリーフに視線を向ける。
どこかで見たような――、既視感を感じるそのレリーフが、何か影響しているような気がしたのだ。
「この場所に戻るためのヒントがあるかもしれないな」
「うん……」
遥香とクロードは、そのあと時間が許す限り、聖堂の中を調べてみたが、結局ほかに何か手掛かりになりそうなものは出てこなかった。
ここを出れば、聖堂に来るのは結婚式当日。
時間切れで聖堂を出る前、遥香はもう一度天使のレリーフのある場所を振り返った。
どこかで見た気がするのに、思い出せないことがもどかしかった。
何百人と入れそうなほど広い大聖堂は今は一般人の立ち入りを禁止されているため、一つの足音すら大きく響いて聞こえるほど静かである。
きゅっと身がしまるような神聖な雰囲気の中、遥香はクロードと並んで、案内を務める司祭の話を聞いていた。
今日は、結婚式の会場となる大聖堂で、当日の配置や手順について話を聞くためにやってきたのだ。
結婚式まで、あと二週間。
大聖堂に来るのは、結婚式当日まで、後にも先にもこれが最後だ。
手順を覚えられないかもしれないと不安になる遥香の隣で、クロードが笑って、小声でささやいた。
「大丈夫だ。ざっくりした流れだけ覚えておけ。なんとかなる」
本当だろうか。
隣を歩くクロードは余裕そうだが、遥香はもはや緊張で頭が真っ白になりそうだ。
クロードとともに赤い絨毯の上をゆっくりと進んでいく。
祭壇のうしろには大きな女神像があり、それは優しい微笑みをたたえてこちらを見下ろしていた。
(きれいなところ……)
純白の豪華なドレスを着て、今日と同じようにこの絨毯の道を進んでクロードと結婚式を挙げるなんて、正直まだ実感がない。
隣に立つのが弘貴だったなら、また違った心境だっただろう。
自分のことなのにどこか他人事で、でもものすごく不安だった。
「当日は俺のことだけを見ていればいい。周りは見るな。いいな?」
参列席の多さに身のすくむような思いをしていると、クロードが耳打ちする。
遥香はクロードを見上げて、小さく微笑んで、口の動きだけで「ありがとう」と伝えた。
「こちらで誓いを立てていただいたのち、証書にサインしていただきます」
初老の司祭は祭壇の上に立ち、当日の流れを一通り説明してくれる。お互いが女神に結婚の誓いを立て、参列者から異議の申し立てがない場合、証書にサインをして結婚が成立するそうだ。
司祭は説明を終えると、大聖堂の中を見て回っていいと言ってくれた。
クロードは忙しいが、今日はこのために時間をあけてくれているので、急いで城へ戻る必要もない。
せっかくだから少し見て回るかとクロードが言い、遥香は彼とともに大聖堂の中を見て回ることにした。
司祭は出口で待っていると聖堂の中から出て行ったので、広い聖堂の中でクロードと二人きりになる。
「大丈夫そうか?」
他人の目がなくなると、クロードが苦笑しながら訊ねてきた。
遥香は首を横に振って、肩をすくめる。
「当日、なにか間違えそうで怖いわ……」
「多少間違ったところで、誰も気がつかないだろう」
「そうかしら……」
「そうだ。気楽に構えていたらいい。結婚の誓いで『否』さえ言わなければ、たとえお前がその辺で転ぼうと俺は気にしない」
クロードが笑って冗談を言うので、遥香も思わず笑ってしまう。
「見て、壁にもレリーフが彫られているのね」
祭壇の横の壁に掘られたレリーフ見つけて、遥香が興味を示して近づいたときだった。
(あれ、このレリーフ、どこかで……)
どこかで見たことのあるレリーフだと思ったその時、遥香の左手の指輪がピカっと強い光を放った。
驚いて指輪を見つめると、光はすぐに収まって、そのあとは何の反応も示さない。
「……クロード」
クロードもその光には気がついたようで、眉間に皺を寄せると、じっと指輪に視線を注いでいた。
「その指輪が光るときは、今までの経験上、あちらの世界に関係するときだけだ」
遥香は頷くと、指輪を見て、それから天使のレリーフに視線を向ける。
どこかで見たような――、既視感を感じるそのレリーフが、何か影響しているような気がしたのだ。
「この場所に戻るためのヒントがあるかもしれないな」
「うん……」
遥香とクロードは、そのあと時間が許す限り、聖堂の中を調べてみたが、結局ほかに何か手掛かりになりそうなものは出てこなかった。
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