夢の中でも愛してる

狭山ひびき

つかの間の 6

 弘貴はぼんやりと時計の秒針を見つめていた。

 あと三分ほどで、深夜の十二時を数える。

 隣のソファには同じくリリーが、ぼんやりと時計を見つめていた。

 リリーの指輪は外して、ローテーブルの上においてあった。

(指輪をはめて、キス……か)

 本当にそれで遥香が戻ってくるのかという疑念と期待、それからまだ十二時にはならないのかという焦燥で弘貴の頭はいっぱいだ。

 夢の中でクロードが読んでいたホフマンの日記には、確かに行動と時間が記されていた。入れ替わったときの行動をなぞらうと、元の世界に戻れたとも。

 しかし弘貴には、その中に気になる一文があるのだ。

 ――正午、同じ魂を持つ者同士が同じ行動を取ることで、同じ時空は呼びかけに応じた。

 正午、同じ魂と同じ行動、これはわかる。しかし「同じ時空」とは何だろう。

 考え込みそうになって、弘貴は首を振った。

 もうあと三十秒で時間だ。余計なことを考えている余裕はない。

 弘貴はローテーブルの上から指輪を取ると、リリーの左手を取った。

「準備はいい? リリー」

 リリーは緊張で強張った顔で頷いた。

 弘貴は横目で時計の秒針を追いながら、十二時になったタイミングでリリーの指に指輪をはめて、その唇にかすめるようにキスをする。

 突如――

 指輪が強く光って弘貴はきつく目を閉じた。

 強い光が目に入り、頭がくらくらする。

 やがて、ゆっくりと目を開けたとき、目の前には泣き笑いのような表情を浮かべる遥香がいた。

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