夢の中でも愛してる

狭山ひびき

つかの間の 2

 ドーリッヒ・ホフマンの孫に会いに行く――

 クロードが突然そう告げたのは、朝食をとり終わって、クロードとともに中庭を散歩していたときのことだった。

 少し涼しくなった風が穏やかに吹き抜けていく。

「孫って――」

「調べていたら、ホフマンの孫の一人が王都で花屋を営んでいることがわかったんだ。もちろん身分は伏せておく必要があるが――、お前も行くか?」

「え?」

 遥香は驚いた。これまで、ホフマンの件をはクロード一人が調べていて、遥香が誘われることは一度もなかったからだ。

「顔色がいい。少し――、落ち着いたのだろう?」

「あ……」

 クロードは、人の表情をよく見ていると思う。弘貴の気持ちが確かめられてホッとした遥香に、気がついていたのだろう。

(今まで、たくさん気を遣ってもらっていたのよね……)

 きっと、心のどこかで戻りたくないと思っていた遥香のこともわかっていて、彼は今まで遥香を誘わなかったのではないだろうか。

「お邪魔でないなら、一緒に行きたい」

 遥香が告げれば、クロードは薄く笑って「わかった」と頷いた。

 スケジュールの調整はクロードに任せることにして、遥香はゆっくりとクロードとともに中庭を歩く。

 そのとき、中庭のベンチに座っている人物を見つけて、遥香は「あ」と声をあげた。

 ベンチには、リリックとアリスが並んで座っていた。こちらにはまだ気がついていないようで、二人で何やら話し込んでいる。

 リリーが馬車の事故にあったのは、自分が祖父のところに逃げたからだと自分を責めて落ち込んでいたアリスを、リリックが慰めていたのは知っていた。

 遥香はリリーではないし、アリスは妹ではないのだが、あの二人がうまくいくといいなと思ってしまうのは、ずっと夢で見てきたからだろうか。

 二人の話の邪魔をしては駄目だからと、クロードとともに静かにその場から離れると、散歩を終えて城へと戻る。

 クロードが部屋まで送ってくれて、別れ際、クロードがふと小さく言った。

「……あいつは、元気そうだったか?」

 あいつが誰を指しているのかはすぐにわかる。リリーだ。

 この前、一瞬だけもとの世界の戻ったとき、クロードはリリーとは会わなかったそうだ。こちらは夜だったから、部屋から抜け出すことは叶わなかったのだろう。

(会いたかったはずよね……)

 遥香は少し淋しそうなクロードの顔を見つめて、深く頷いた。

「元気そうよ。困ったこともほとんどないみたい」

 するとクロードは、そうかとつぶやいて微笑むと、遥香の頭をぽんぽんと撫でてから去っていく。

(クロード……)

 クロードもきっと、たくさん我慢している。

 遥香のために、リリーに会いたいという気持ちを抑え込んでくれているのだと思うと、胸が苦しくなって――、遥香は、自分ももっとしっかりしなくてはと拳を握りしめた。

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