夢の中でも愛してる

狭山ひびき

4

グロディール国に来て、三日が経った。

遥香は、切り刻まれた真っ白いクッションを見つめて、きゅっと唇をかみしめた。

隣では怒った顔で、クッションの中身である羽毛をかき集めているアンヌがいる。

羽毛はソファの上だけではなく部屋全体に散らばっていた。途方に暮れてしまった遥香に対して、アンヌの切り替えは早く、先ほどからほうき塵取ちりとり、袋を持ってせわしなく動き回っていた。

部屋の中には、アンヌ以外の侍女の姿はない。

クロードの部屋で、一緒に昼食をとって部屋に戻ってくると、今の惨状になっていた。

(嫌われてしまったみたいね……)

ようやく我に返った遥香は、アンヌを手伝うために、ソファの上の羽毛を集めはじめる。アンヌが「リリー様はそんなことはなさらなくていいんです!」と怒ったように言うが、こうなった責任は自分にあるので、遥香は羽毛を集める手を止めなかった。

おそらく、クッションをこんなにしたのは、侍女たちだと思う。

クロードに「甘くみられるな」と言われていたにも関わらず、おっとり、のんびりしている遥香を主だと認められなかったらしい彼女たちは、二日目にして仕事を投げ出した。

それだけならまだいいのだが、遥香がクロードの妃になるというのも気に入らなかったのだろう。ティーカップが割られていたり、朝食が出てこなかったりという嫌がらせがあり、次の標的にされたクッションがこうして切り刻まれていたというわけだ。

(お気に入りだったのにな……)

羽毛を集めていると、どんどん悲しくなってきて、遥香は涙を我慢するためにぐっと奥歯をかみしめる。

そうして、あらかた羽毛が片付くと、アンヌが手に持った箒を、ダン! と床にたたきつけた。

「もう我慢ができません! わたしの姫様に対するこんな扱い、絶対に許せませんから!」

昔から侍女として仕えてくれていて、どこか姉妹にも似た気のおけない関係のアンヌだからこそ、耐えられなかったのかもしれない。

「リリー様、今日からリリー様の身の回りのことは、すべてわたしがします! あの侍女たちは、絶対にこの部屋には入れませんから!」

鼻息荒く宣言するアンヌに、どこか不安を覚えながらも、遥香は気おされたように頷いたのだった。

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