お前達に未来など要らない
新しい家
父が死に父の残した大きな家に私は1人になってしまった。
「レイカルさん、今日はシュライク氏が研究していたデータを引き継ぎに来ました」
深く黒い帽子をかぶった父と友人であり研究医仲間だったチラス・ガウスさんが父の葬式の2日後に家にやってきた。
「わざわざ、家まで来てくださってありがとうございます。けど、父は家に何も研究資料は置いてませんけど、、、」
私は客間にガウスさんを招き入れながらも説明をした。
父の研究は星府の機密事項に入る為、簡単には星府施設から持ち出す事は出来なかったはず。研究医仲間のガウスさんなら知ってるはずなのに私は何か変だと思いながら、ガウスさんを椅子に座らせ、私はその前にある椅子に座った。
「いえいえ、、、そうですねぇ、、、あぁ!レイカルさんももぅ14歳でしたね。レイカルさんの世代だと、地球人とガーネア人との違いは知ってますよね?」
と言いガウスさんは、頭から帽子を取りテーブルに置いた。短髪の白髪をサラリと見せ、私の家政婦ロボが出したコップの中身を一気に飲み干し少し意味ありげな表情をした。
「はい、勉強はもぅ一通り終えてますし、父が地球保護捜索班に任命される前までは、ガーネア人の生体についての研究をしていて、班に任命されてからは地球人の生体についても研究課題になって楽しそうにそう話してました。仕事の話は外部に話せれる部分までなら他愛無い世間話で聞いてましたから。」
と、私は少し警戒しながらも答えた。
「そう。そのガーネア人と地球人との差を見つけたのがシュライク氏だ。今や教材の一部にもなってる分野だね?今からが本題だが、君は生まれながら娘として育てられた。そして、シュライク氏は父親として見るように君を育てた。それは一体なぜ?」
ニヤリと笑うガウスさんに私はゴクリと唾を飲み込み
「そうですね。一度私も疑問に思ってお父さんに聞いた事がありました。ガーネア人は地球人と違って生殖機能を持たない人種で、ゆえに女性とか男性とかの概念はなく、ガーネア人が子孫を作るときは星府の特定施設のみ遺伝子の組み替えで作るはずで、なんなら、私のように父の遺伝だけで作られた父の先祖返りとして生まれたのが私であり。。。なぜ、いちいちそこに娘と父という概念を作ったのかと。アレは確か、、、5歳の時でした。父が地球に行く前に聞いたんです。」
と、答えた。
「そしたら?シュライク氏はどう答えた?」
ガウスさんは足を組み、私をじっと見つめた。
「地球人のように家族愛はそうゆう区別されたもの同士から生まれる物ではないかと思った、、と、父は答えました。今でもよく分かりませんが、女と男がセックスをし子が女の腹の中で育ち股から産まれるという地球人の子孫の残し方に、父は神秘を感じたとも言ってました。」
「シュライク氏らしいな。アイツは、全て機械で自分の遺伝子を操作し、顔の形、目の色、体の体型を作れるガーネア人の子孫の残し方は面白くない。そこに、愛を感じないと研究所でボヤいていた。」
と、愉快に笑うガウスさんに私は睨みながら言った。
「ですが、それがなぜここに父の研究資料があるっていう結論になるんですか?」
「あるよ。シュライク氏は、君に父親を強要した。そして、君もまた娘として立ち振る舞った。お父さんと呼ぶ事によって。」
ガウスさんはそう即答した。
「え、、、、それってまさか、、、」
私は驚いた顔を隠せれなかった。
「そうだよ。君がシュライク氏の研究資料だ。」
そう、ガウスさんは手を自分の顔の前に組みニヤリと私を見ながら笑顔で答えた。
「私は、、、研究材料になると書面した記憶がありませんが。」
私は一呼吸して冷静に返した。
「そうだね。僕もそんな契約を交わしたという報告は聞いてないね。」
「じゃ、なぜ?」
「研究者の関係者は皆、研究材料になりつつあってもおかしくない。それが、家族ならなおさら、ね?」
と言ったガウスさんは手を解き、足を直しスッと立ち上がった。
「君は馬鹿じゃないから、これで分かりましたね?ガーネア星府が作った、研究人材契約書にサインしなくても、研究医と関係が近ければ近いほど研究資料に勝手に、無意識に、使われるんだよ。レイカルさん?君がシュライク氏と関わったその14年間の記憶のデータを私の研究材料として提供していただきたい。お礼は、君が自立できるその日までの全面的なサポート。という事でどうでしょう?ガーネア人の成人年齢は15歳だからね。君の次の誕生日まで面倒を見るよ」
と、頭を深々と下げるガウスさんの頭を私は睨みながら
「私は貴方に利用されるのも好きじゃないんですが、このままだと、星府の孤児施設にも入れられこの家を手放さなきゃいけなくなりそうので仕方ないですね。私が15歳になる後数ヶ月だけ、データを渡します。15歳になったら返してください。後コピーもダメですよ。星府がしろと言ってきても、私は拒否しますからね」
と、答えた。
ガーネア人は生まれたらすぐに右耳裏にチップを埋められる。
それは、心拍や血圧など健康面を見るためもあるが、目から見た情報や聞いた話、記憶などの日記にも使われている。
学歴、職歴、能力数値、全てがこの埋め込まれたチップにデータ化され保存される。
だがそれは、星府が全て管理してるわけではなく基本的には個人で管理していて、中身の共用やコピーは本人の許可が無いと出来ないように作られている。
そして犯罪や病気などは、このチップで即感知できるようにもなっている。
「いいでしょう。じゃ、また明日迎えきますね。君のデータを取る期間は星府の研究所での生活になるから、ちゃんと生活する準備を今日中にお願いしますね」
と、ガウスさんは家を出て行った。
父はほとんど地球に居て、私は家政婦ロボに育てられたが、この家には14年間の思い出と記憶が残っている。
簡単に手放す事なんて出来ない。
けど、もし父が私のデータに何かメッセージを残してるのならそれを私は見つけたい。
どうして、父は愛など欲したのか。
父もまたジンバルガ家のクローンとして育てられていたはずなのに。
父は研究のし過ぎで頭がおかしくなってしまったのだろうか。
私は生活用品の荷造りを家政婦ロボに頼み、大切な物は自分の鞄へと入れていった。
父と撮った写真のデータ、映像録画、父が毎年誕生日に買ってくれた私のお気に入りの白いワンピース。
「これは、、、明日着て行こうか、、、」
私はワンピースを睡眠カプセルの横にあるクローゼットにかけて
いつも、このワンピースと一緒に履いていた茶色いブーツも靴だなから出しクローゼットの床に置いた。
この2つは父がセットで買ってくれて、少しでも汚れるといつも私は拗ねて泣いてた。
そして、家政婦ロボに洗ってもらって、、、綺麗になったやつをまた着て用もないのにお出かけして、、、
父がガーネア星にいる間の何気ない1日1日が私にとっては宝物で、記憶データもすぐアップデートしなきゃメモリーがパンパンになって大変だったなぁ、、、
この膨大な記憶データに何が入ってるかは知らないけど、少しでも星府の研究所で情報を掴んで私は地球に行く。
そして、父を殺した奴らをみつけ出してやる。
私はワンピースを眺めながら強く拳を作った。
次の日、
ガウスさんは家の前まで車をつけ待っていてくれた。
「よく眠れましたか?」
ガウスさんはニコッと笑う。
ガウスさんの笑顔は私は嫌いだ。
「えぇ。この家にはちょっと間、帰れないので家政婦ロボの警戒レベルMAXに設定して出てきました。カグヤ行ってきます。」
私はそう言いながら家政婦ロボのカグヤに手を振った。
【行ってらっしゃいませ。またお会いできるのをお待ちしております。マスター】
と、カグヤは深々と頭を下げて見送ってくれた。
私は白いワンピースのスカートを揺らしながら茶色いブーツで家を出てガウスさんの車の中に乗り込むと、ガウスさんの助手のチ・レインさんが居た。
「あれ?手ぶら?荷物は?」
と、目が点にして聞いてきた。
「今の時代、大きな荷物を持ち歩く人なんて居ませんよ?全部、空中配達ロボに頼みました。私達が今から向かう場所に今頃向かっているはずです」
私は素っ気なく答えた。
「あー、、、そういえば、空中配達ロボってやつあったか。。昔は誤作動が多くて僕は好きじゃなかったんだがね。」
えへへと笑うレインさん。
「最近のは優秀ですよ?父も帰ってくる時は宇宙船の私物を家まで送り届けるのによく使ってましたし」
「へー、、、じゃ、僕も久々に使おうかな」
そう話しているうちに
ガウスさんも乗り込み、車は動き始めた。
どんどん遠くなっていく家を私は見えなくなっても見ていた私に
「寂しいのですか?」
ガウスさんが聞いてきた。
「そりゃ、14年間もあそこで父の帰りを待ってましたから」
「君の父はもぅ帰らないですよ?」
「そんなの言われなくても分かってます。もぅ子供ではありませんから」
「レイカルさん、君は後悔しないのですか?」
「何の話ですか?」
「お父さんを殺したのは地球人かもしれないが、死ぬような場所に命令を出したのはガーネア星府かもしれませんよ?君は、仇をとりたいのでは?」
「なぜ、私が仇を?」
「君の瞳がそう語っています。」
そう、じっと私の横顔を見てきたガウスさんに
私は目を合わせず外を見続けた。
「そんなの、関係ないです。私は知りたいだけです。愛が無くても生きていけれるガーネア人に愛を生もうとした理由を」
そう答えると
「それは、とても興味深いですね」
と、くくくと笑ったガウスさん。
そして、誕生日まで後数ヶ月、私が暮らす星府の研究施設にやってきた。
薄い緑色に統一されたその研究施設は厳重な監視下の中に存在していた。
今日からココが私の家なんだ。。
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