【旧版】自分の娘に生まれ変わった俺は、英雄から神へ成り上がる

東郷 アリス

第20話 空白の一年間



時はシトレアがドラゴン襲撃で意識を失ってから一カ月が経った頃まで遡る。


《セレス視点》


私は、自分の住んでいる村から出たことがなく地図に詳しくなかったため、地形については全く理解していなかった。そんな私がなぜ村を出て旅をしているか、これはこの時より一ヶ月ほど遡る…






私は自分の家で、お母さんの料理のお手伝いをしていた。お父さんは、いつもと同じようにお仕事に出かけている。私とお母さんは、お仕事に行っているお父さんの帰りを、夕ご飯を作りながら待っていた。


「アシナ、セレス、今帰ったよ」


私たちは一旦火を止めて、帰ってきたお父さんのとこまで早足で向かう。


「おかえり、お父さん」


「お帰りなさい、あなた。もうすぐ夕ご飯の準備ができるところですよ」


「そうか。じゃあ俺も手伝うよ」


そう言って私たち一家は、夕ご飯の準備に入っていった。そんな日常が私にとってはとても幸せだった。


その日の夜だった。
私の人生を狂わせたのは。


「ドラゴンが来たぞ!村の男どもは戦いの準備を!女たちは早急に避難を!」


そう言って村を駆け出している人がいる。


私たちもその声で目を覚まし、その声に従い、避難を始めた。そして途中まできたところ、お父さんが立ち止まった。


「アシナ、セレス、悪いがここでお別れだ。二人とも、愛してるよ」


そう言って私の頬にキスをし、お母さんの方には唇にキスをした。


「お父さん…」


「あなた生きて帰って来てね」


お父さんは、私たちに無言で笑顔を返して走り去っていった。


もう二度と帰ってこれないのを知っているかのように。






私とお母さんは、しばらくして避難場所に無事にたどり着くことができた。多くの人がその身体を震わせながら、怯えている。
小さい子の中には、その雰囲気を感じ取ったのか、泣き出してしまっている子もいる。


その時だ。


空からドラゴンがこちらに向かって来ていた。
それは何より、前で戦っていた村の男の人たちが戦いに敗れたということを表していた。
 

それを知っていて理解してしまった人たちの中には、ただただその場に立ち尽くして、呆然と涙を流している人がたくさんいる。私のお母さんもその一人だ。


ドラゴンはそんなことになりふり構わずこっちに向かってくる。


そのドラゴンは、私たちをブレスの射程範囲内に捉えたのか、ブレスを撃つ準備をしている。


私はすぐにそれを察し、一目散にお母さんに言った。


「お母さん、ブレスがくる!このままだと死んじゃうよ!早く逃げよ!」


でもお母さんは首を縦には振らず、首を横に振って涙をこぼしながら、そして言った。


「お母さん、もうダメみたい」






その時の表情は、悲しそうに笑っていた。ただ瞳に溜まっている涙がその答えを示していた。


そしてドラゴンからブレスが放たれた。私は目を瞑った。すぐ目の前に放たれているブレスの熱さに耐えながら。


そしてその熱が収まったと思ったとき、私は目を開けた。


「…ぁぁ…ぁ」


さっきまでお母さんがいた場所が跡形もなくブレスで焼かれていた。その時私は悟った。


あの時の言葉は私とお母さんの最後の会話だったんだ。と。


このままだと時期にドラゴンのブレスがまたくる。そう感じて私は一目散に逃げ出した。誰もいない場所へ。まだ知らぬ見たことない世界へと独り身で羽ばたいた。






どのくらい走っただろうか。私はその場で立ち止まる。そして私はその場で立ち崩れた。


「…ぁあ…ああっ…うわぁあああっーー!!!」


声が枯れそうなくらいまで泣いた。
それはもう一生分くらい。


最後に見たお母さんとお父さんの顔はどちらとも満開の笑顔だった。


これがセレス、私の新たな道のスタート地点。

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