声優さえできればいい
第3話 あの日の出来事
それは一年の月日を遡った時のことーー
俺は赤宮 きりん、14歳だ。まあ、思春期真っただ中の中学二年生だ。あと少しで三年生だけど…
そんな俺の現在はというと、三月に二年生の全過程を終了し、春休みにはいっている。
そんなわけで赤宮 きりんこと俺はーーん?待てって?
女の子なのになんで俺なんて言ってるか?
いや、俺は男だ!!
この名前、きりんだと女子にしか見えないけど、一応正真正銘の国から認められている男だ。あれだってしっかりついているしな。
うむ、一人で寂しく自己紹介も終わったことだし、メインに入るとしよう。
俺は駅の改札口を出て外に向かって駆け出した。
「来ました!秋葉原!」
そう、現在俺がいるのは秋葉原である。なぜここに来たかというとーーー
「うっ、ううっ!封印されし俺の右眼が疼く!」
そう、中二病をこじらせに……嘘です。すみません、調子に乗りました。本当の目的は、好きな声優のイベントを見に来ただけです。本当…だよ?
俺は小さい頃から声優に憧れていた。
どうやってタイミング良くボイスを入れるんだろう?あんなに上手くキャラを演じることが出来るんだろう?その他にも色々な疑問を持ちながら、その頃は自分でも楽しんでいたし、ワクワクも感じていた。
そしていつしか自分も声優になりたい。そう思うようになった。だけど、ガヤやモブキャラをやりたいわけではなかった。俺は、メインヒロインの声優をしたかったんだ。
だけど夢は叶えようとする前に、成長していくにつれ、どうあがいても叶えられないことを知った。
そう、俺はメインヒロインは女だけだということに気づいたのだ。女の子の声を、声が低い男性が出来るわけがないのだ。結果的に、今までしてきた声優の真似事も、声優のための練習も歌も全てが無駄だったのだ。
だけど俺は、メインヒロインの声優になるという夢を諦めることは出来なかった。メインヒロインになれないことを知っててもそのための練習は続けた。いや、もっとハードな練習を始めた。
それも毎日、毎日、毎日。1日も休まずに毎日。
そしてついには普通を越えた。自分で言うのもなんだけど、俺には声優の才能があったらしい。だけど、それでも男ではなれない、なることができない残酷な道。
そして俺はその道を知りたくなった。メインヒロインの座を持っている声優はどんな人なのか。
というわけで、まずはその声優のイベントにでもと、今日秋葉原に来ている。
そして俺はその声優のイベントをじっくりと見届けた。
結果からいうと…
すごく面白かった。結構自分も盛り上がったし。
俺はイベントの余韻に浸りながら秋葉原の道を歩いていた。そして歩いている途中に、ふと本音を吐きだしてしまった。
「メインヒロインか…」
誰しもが憧れ、誰しもに愛される存在。女性の声優でも、生半端な覚悟ではそこまでたどり着くことはできない。
もし俺が女の子だったら。もし俺が男ではなく、女の子として姓を受けていたのなら。俺はメインヒロインになれたのだろうか。
だが、今の俺には、その悩みさえもただの無駄だ。だって男なのだから。
でも。
もし神様が俺の願いを叶えてくれるのなら、一度だけでいい、メインヒロインの声を演じてみたい…!
そんな時だった。
いきなり俺の前に、直視出来ないほどの光が射した。
俺は、腕でその光から目を守り、腕の隙間から何とか見ようと少し目を開けた。だが、眩しすぎて何も見えやしなかった。
だが、俺は諦めきれなかった。
その光の中に、もしかしたらメインヒロインになる手がかりがあるのではないかと期待を持っていたからだ。
そして、そう思っていた時だった。
「君、声優になりたくない?」
光の中から声がした。
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