エルフ始めました。

東郷 アリス

第26話 エルフ、撮影始めました。



そしてこれまでに起きたことを簡単に堀江さんたちに説明したのだが……


「朝起きたらエルフの美少女に生まれ変わってただなんて……」
「はい、あり得ないと言いたいですけど……」
「本人を見ちゃうと信じるしかないわ。よね?」
「そうですよね……。これが本当ならエルさんが俺って言ってるのも筋が通りますし……」


未だに信じられないという顔をしている堀江さんとオーナーさんだが、一応信じてはくれているようだ。


「私たちは知ってたけど、改めてエルの姿を見ると私たちと次元が違うのよね……そうね、例えでいうとラノベで出てくるメインヒロインという感じね」
「うん、えーくん可愛いよ!!」
「あははっ……」


どうせならメインヒロインじゃなくて、ヒロインに囲まれてるハーレム主人公になりたかった……


まあ、下手に異世界に飛ばされたりするよりはマシ……なのか?うん、マシだろう。


「あっ、それよりも撮影は早く始めないのか?この後予定があるとか何とか言ってたよな?」
「あっ、そうだったわ。オーナーも堀江さんもほら、止まってないで撮影開始してほしいわ」


未玖が手を数回叩くと、二人はハッとかを取り戻してお仕事モードに入った。
堀江さんは俺のお化粧、メイクの続きをするのかと思っていたが、堀江さん曰く、この自然体でも問題ないということ。まあ、俺にはファッションとか分からないからどっちでもいいけど。


「じゃあ、撮影始めるから、エルちゃんの思い思いのポーズお願いできるかなぁ?」
「えっ?思い思いのポーズ?」
「うん、本当に適当でいいから。私はそれを上手く撮影するから心配しないでちょーだい!」
「は、はぁ……」


だが、オーナーさんにそんなことを言われても、どんなポーズをすればいいのか俺にはピンと来ない。
しかし、何かしらポーズをしないと撮影は終わらないだろうから適当に腕を伸ばしたり曲げたり、回転したりしてみることにした。
すると、その最中でカシャッっとフラッシュが焚かれた。どうやら俺にとって初めての撮影が始まったようだ。






それから二、三分が経った。しかし、ポーズのバリエーションが豊富ではない俺は、それはもうパニクっていた。


やばい、自分でもどんなポーズをしてるのか分からなくなってきた……視界も真っ白になってきた気がする……


そんなことを思っていると、オーナーさんが撮影している手を止めた。


「エルちゃん、さてはもう何が何だか分からなくなってるねぇ?」
「えっ、何故それを……?」


俺は、自分の心情を解いてしまったオーナーさんに驚きを隠せなかった。


「そんなん簡単にわかるよぉ?だってエルちゃんさっきから笑ってないじゃん」
「あっ……」


他の三人もうんうん頷いている。


「まあ、別にエルちゃんとてつもなく可愛いからこれでもいいんだけどねぇ、やっぱり笑ってたほうが女の子は誰だって可愛いじゃん?」
「俺は男ですけどね」
「にゃははっ、そうだったわー」


「しかし、それもそうね。じゃあエル、これを見てちょうだい」


すると未玖は、ポケットからチケットを取り出した。


「ま、まさか!?それは!?」
「そうよ、そのまさかのまさかよ!!」


そう、俺がイベントに行きたくても高倍率過ぎて手に入らなかったチケットーーーー


「そう、これは赤宮 カノンの武道館ライブのチケットよっ!!しかも一番グレードの高い席よ!!」
「マジかよ!?」


くそー、ずるいぞ未玖!!俺も行きたい!!


「エル、ここからが提案なんだけど」
「な、何だ!?」
「ここに同じものがもう二枚あるんだけど……一枚はお姉ちゃんで決まってるからあと一枚余ってるのよねー?で、それをエルにあげちゃおうかなーって思ってるのだけど。でもこの撮影のクオリティーじゃ無理よねー?」
「ぐぬぬっ」


男の尊厳を保つか。推し声優であるカノンちゃんの武道館ライブに行くか。俺は今この場で、どちらかを捨てなければならない。


しかし、俺にとってその選択は至って簡単だった。


、精一杯モデルをやらせて頂きます!!」


未玖とエルの上下関係がはっきりした瞬間であった。



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