タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜
52.葛藤
優がスーツの男に飛び込んでいく。スーツの男は無敵さんの相手をしていたので隙を突かれたようだ。しかし、すぐに体勢を立て直し、優の相手をする。気づけばスーツの男と優が、汚い服の男と無敵さんが戦い合っている。加藤さんはプログラミングを進めている。僕は、僕は、、ただ見ているだけであった。銃とか、拳とか、僕にはそんな武器になるようなものは持っていなかった。
この感覚、どこかで覚えがある。...そうだ、刑務所に入る前、入社してすぐのことだった。他の人達がテキパキと仕事している中、僕だけ何もできずただ皆を見守っているあの状況。あれ、僕の存在価値はなんなんだろう?僕以外のこの3人がいればいいじゃないか。僕はそんなことを考えていて、何もできずただそこに立っているだけだった。
「太一さん、何してるんすか!?」
優の怒号が聞こえる。優も、無敵さんも相手に押されている。何か僕も役に立たなければ。しかし、役に立てる自信はなく足はその場に引っ付いたままだった。
「太一さん!」
「よそ見している場合ですか??」
「ぐっ!!」
優が僕を気にしている隙にスーツの男の拳が鳩尾に突き刺さる。優はその攻撃を受けその場に蹲る。
「優!!」
「ふふふ。これで1人。あとはあなたですね!!」
スーツの男はそう言うと僕の元に近寄って来た。まずい、瞬間移動か!?僕は思わず防御の構えを取るが、相手はその間を突いて拳を振りかざしてくる。
(しまった!当たる!!!)
そう思って目を閉じた。一応体に力を入れる。が、そこからどれだけ経っても拳が僕に当たることはなかった。恐る恐る目を開けると、そこには拳を振りかざしたままのスーツの男がいた。
「来た!!プログラミングが完成した!!とりあえず片方だけ!!」
加藤さんが叫ぶ。
「太一さん!」
優は蹲った姿勢のままこちらに拳銃を投げてくる。僕はそれをキャッチする。
「太一さん、やっちゃってください!!」
これで僕が目の前の男にトドメを刺すのか。見ると、無敵さんは別の男と闘っているし、加藤さんはもう1人の奴のプログラミングを進めている。優はパンチを喰らって身動きが取れずにいる。僕が、僕がやるしかない。
「太一さん!!!」
僕は拳銃を受け取り相手のこめかみに突きつける。今こそ僕は役に立つしかない。
「ぐあああああああ!!!」
スーツの男は、どれだけ動かそうとしても動かない己の体にひたすら無意味な努力を続けている。この男の命を、僕が奪うのだ。
「早く!早く仕留めてください!!」
加藤さんが急かす。僕は拳銃の引き金に震える指をかけた。
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