タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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40.夜風







 その夜、ふと目が覚めた。僕は誰も起こさない様に布団を出て夜風に当たろうと外に出た。あまりの肌寒さに思わず身震いする。見ると、そこには桔梗がいた。





 「桔梗。眠れないのか。」





 「!?なんだあんたか。そう、眠れなくて。」





 「....。」




 「....。」




 「....。」




 「...おじいさんとはね、血が繋がってるわけじゃないの。」





 「!?」




 「私、孤児院で暮らしてたの。親がね、私を捨ててどっかに行っちゃったみたい。孤児院はそれなりに楽しかったけど、やっぱたまに思っちゃうのよね。孤児院の先生は優しくても、それは結局先生で親とは違うんだって。その優しさは孤児院の子供達全員に向けられるもので、私だけのものじゃない。ひょっとしたら私はこの世に必要ないのかもしれない。」





 「桔梗...。」




 「それでね、ある時手紙が来たの。私と一緒に暮らしたいって、そんな手紙。びっくりするでしょ。全然知らない人から名指しで養子にしたいって。私になんかしたら蹴り飛ばしてやろうと思ってた。...でも、いつまで経ってもおじいさんは私に危害を加えなかった。私にとっては名前も年齢も知らない人。だけどいつの間にかたった1人の家族だった。」





 桔梗は深淵に染まる夜の空を見ながらそう言うと僕に背を向けた。





 「なんて。忘れて。明日からはいつもの私だから。よろしく。」





 桔梗は振り返ったまま小さく手を振り事務所に戻っていった。僕は結局最後まで何も言えなかった。






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 次の日に葬式が行われた。この街では人が死ぬと次の日には葬式をして故人を見送るのだそうだ。葬式には桔梗と葵と、桔梗の友達と、それと僕達だけだった。1時間程で葬式は終わり、僕達は事務所に戻ることになった。






 「...桔梗は戻らないのか?」




 「私はまだやることがあるの。一応喪主なんだから!ほら帰った、帰った。」




 僕達は桔梗の用意したタクシーに詰め込まれ、ほぼ強制的に帰らされた。




 「にしてもすごいっすよね桔梗ちゃん。まだ若いのにあんな気丈で。」




 「ああ。優、葵ちゃんはいいのか。」

 


 「喋ってきたっすよ。今は桔梗ちゃんといたいって言って後で1人で帰るらしいっす。」
 
 



 「そっか。」




 「あとアレについても訊きました。アーテリーとヴェインについて。」





 「そっか。後で聞くよ。」




 「うっす。」





 「はあ...。」




 「どうしたんすか、無敵さん。溜息ついて。」





 「いや、あれはどうみても事件じゃろ。誰かに殴られて殺されたんじゃ。...なんか昔を思い出してのぅ。だからこそ、なんて言うか怒りが湧いてくるんじゃ。」




 「無敵さん...。」




 「蝶野が待っとる。とりあえず戻るぞ。」

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