タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜
32.救済
「皆さん、お久しぶりです。」
閉じ込められている僕達の前に男はいつも通りの笑顔を浮かべる。しかし、僕達は空腹でそれどころではなかった。丸3日も放ったらかしにされて、肉体的にも精神的にも参っていた。
「おい...何のつもりじゃ...。」
声を振り絞って無敵さんが言う。あの無敵さんでさえもグッタリとして目が虚だ。
「我々が行っているのは魂の救済です。」
「救済?」
「皆様は自殺希望者の方々ですよね?ということは自分の命はどうなっても良いと。それならば、世の為人の為にその命を投げ打った方が良いかと。」
「どういうことじゃ。」
「だから、言っているでしょう。どうせ死ぬのなら誰かの為に死ぬほうがいい。ならば、死にたいと言う人を集めて我々の役に立って死んでもらうのが一番手っ取り早いでしょう。需要と供給、なかなかに筋が通った話だと思いますが。」
「...ワシらをどうするつもりじゃ。」
「このまま死んでもらいます。」
「!?」
「そうに決まってるでしょう。じゃなきゃ、こんな手の内を明かしたりしません。」
「ワシらをここで殺して何の役に立つ?」
「...死体というものは役に立つんですよ。実験に使ったり、移植に使ったり。高い値段で売り飛ばすこともできます。最近、我々の研究で面白いものがあります。『生前の生き方によって死体にどんな変化があるのか』。面白いでしょう。あなた方にはその被験体になって頂き、その後売ります。」
「....んじゃと!?」
「受付の際に個人情報を書いて頂きましたね?あれは研究の為です。その際に右手首に押したスタンプは、あなた方の情報を一人一人区別する為、いわば家畜にも使われる個体識別検索用です。」
「...全部、研究の為じゃったんか?」
「ええ、そうですよ。座禅の時間も、あなた方の身体的特徴を外から見てチェックする為の時間です。皆さん目を閉じてじっとしてくれるので好都合ですよね。あなた、とても体格がいい。高く売れるので丁重に扱おうと思ってました。」
「...クソが!!」
「何を怒ってるんです?あなた方は死にたいんでしょう?ならば、またとないチャンスじゃないですか。我々の養分となって死んでいくこと。それが魂の救済であり、救世主様のお考えなのです。」
それを言われたことを機に、無敵さんは黙ってしまった。僕は二人の会話を朦朧とした意識の中で聞いていた。胸の中で怒りはふつふつと湧いてくるが、それを表に出す体力は全くなかった。優と他2人は死んでいるかのように床に伏せている。微動だにしてないので本当に死んでいるかもしれない。
「体が綺麗なまま死んでもらうには餓死が一番いいのでね。申し訳ありませんが死ぬまでそのまま耐えてくださいね。」
「...おのれ...。」
無敵さんが項垂れる。初め2日は鉄柵を壊そうと殴り続けていた無敵さんだが、もう体力が底をついているのだろう。声も弱々しくなる。
「ではこの辺で。新しい被験体が今日も来ているので、失礼する。」
男が去ろうと背中を向ける。とその刹那、隣に伏せていた優がゴソゴソ動き始めた。そして、
「パァァァァァァァン!!!」
銃声が轟いた。あの日盗んだ銃を胸元に忍ばせていたのだ。その銃口は去ろうとしていた男の背中に向けられていた。
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