タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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29.依頼人






 「あ、すみません、さっきの会話が聞こえてしまって、勝手に声掛けてしまいました。すみません!」



 

 その女性がこちらに向かって謝ってくる。こちらが申し訳なく思ってくる程頭を下げてくるので遠慮してしまう。





 「あ、いえいえ、大丈夫ですけど...。あなたは...?」






 「ああ、すみません!名乗りもせずに。本当にすみません!」





 「あ、はい。大丈夫ですけど...。」





 「私、探偵さん宛にお手紙差し上げた者です。」
 



 「ああ、貴方でしたか!」



 
 僕が驚くとすかさず優が割り込んで来た。




 「素敵なレディ。貴方のような人に頼ってもらえて光栄です。貴方のことがもっと知りたい。」




 「は、はあ。」




 「貴方のお名前は?」




 「名前..。はあ、あっ、すみません、差し出し人の名前お手紙に書いてなかったかもです。本当にすみません!」




 「いえいえ、お気になさらず。」




 優がクールにウインクする。彼女はひたすら謝っている。無敵さんは腕を組んだままベンチに座って眠っている。なかなか埒が明かない様子なので僕が話に切り込んでいくことにした。





 「すみません、うちの仲間が。して、大変失礼ですが貴方の依頼の真意は何なのでしょうか?」




 「あ、はい。このサークルの大体のお話を聞いたと思うんですけど、このサークルは罠なんです。」




 「罠?」




 「先程のサークル構成員はみんなグルなんです。」




 「グル?」




 「はい。このサークルに入って来た人達は全員姿を消してるんです。」




 「失踪したってことですか?」




 「はい。詳しい所まではまだ見せて貰えてないのですが、新しく参加した人は必ず救世主様に部屋に連れて行かれるんです。」
 



 「で、帰って来なくなると。」




 「そういうことです。」




 「あの....、失礼ですが貴方は?」




 「はああ!すみません自己紹介してませんでした!すみません!!」




 「あ、いえそんな謝らなくても。」




 「私はこのサークルのグルの者です。この街に来てこのサークルのことを知って参加したんですけど、救世主様に気に入られたとかで部屋には連れて行かれず...」




 「何と言われてるんですか?」




 「新しくサークルに参加する人と仲良くするようにと。それだけです。」



 

 「はい!」




 横で聞いていた優が手を挙げる。




 「なんだよ、優。」




 「貴方今『この街に来て』って言いましたよね?...ということはもしかして、囚人...ですか?」




 「あ、はいそうです〜。」




 「え!?」




 女の人はさも当たり前かのように応えた。




 「ああ、すみません!囚人番号付いた服今日着てないもので!すみません!すみません!」




 「あ、はい...。はは。」




 「私、蝶野澪と申します。」




 「蝶野!?」




 「蝶野」という言葉の響きに無敵さんが反応して起きる。




 「どうしたんっすか、急に起き出して!」




 「いや、今なんか強そうな名前が聞こえたからのう。『蝶野』っていう...。」




 「何言ってんすか?」




 と、このタイミングで鐘が鳴った。休憩時間終了の合図だ。




 「それでは、参加者の皆さん講堂にお集まりください。」




 あの男の声のアナウンスが施設内に響き渡る。




 「まずい、時間ですね。貴重な情報ありがとうございました。後はこちらにお任せください。」




 「すみません、本当に。」




 僕達3人と蝶野さんは講堂に向かった。

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