タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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24.月









 「!?優太郎さん、この方向...」





 「はあ、はあ、はあ、もう、限界」




 
 優は六郎太さんの家までもう少しのところで立ち止まった。しばらく走っていたので大分息が切れる。





 「優太郎さん、どこに向かってるんですか?」




 「....。」




 「もしかして、旦那から何か言われました?」




 「!?」





 せめて探偵とはバレないように気を付けていたのだが、気付かれたかもしれない。優はその場にしゃがみ込む。凛々もその場にしゃがんで喋り出した。




 「私たちはお見合いで出会ったんです。」




 「!?」



 
 「あの人緊張しいで、私の目も見ずに喋ってましたが、その恥ずかしがる姿を見てると愛おしくなって、それで結婚しました。」




 「そう...なんですね」



 
 「ですが、順調な結婚生活にはならなくて...。家のローンとか、生活費とか、そんな些細なことで喧嘩するようになっちゃって。....。私がこの仕事始めたのは丁度それくらいの時期でした。2人の為にって思って、彼にも内緒で。ぼったくりの店っていうのはわかってました。じゃないと、私の年齢で雇ってくれるところはほとんどなかったので。」





 「凛々華さん...。」




 「それでなんとかお金を貯めて、2人で暮らせていけたらと思ったんです。」





 それを六郎太さんは浮気してると勘違いしたのか。凛々の長い髪が揺れる。優はもう一度立ち上がった。





 「あーあ!もったいない!もったいないっすわ!あんな人にこんな素敵な奥さんがいるなんて!こんな素敵な愛をあんな人に秘密にしてるなんて!」




 優はそう言ってまた走り出す。凛々は腕を掴まれていなかった。しかし、優の跡をついて走った。






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 六郎太さんの家に着いた。なんで来たのかはわからない。しかし、この瞬間に六郎太さんに会わないといけないと思った。家の扉をノックする。




 「はい。」




 六郎太さんが出た。2人の姿を見て目を丸くする。




 「あなた、ただいま。伝えたいことがあるの。」




 「....え、はい。」




 六郎太さんは事情を飲み込めないまま俯いて言った。





 「...私、お金貯めた。2人で、このお金で仲良く暮らしていこうと思ってた。でも、それはもう無理かもしれない。」




 「!?」




 六郎太さんの汗が滝のように流れる。




 「もう2人じゃなくなるから。」



 
 「え...!?」




 「私妊娠したみたい。」
 



 夜の風が吹く。優は空を見ていた。どっかで見たことある月だ。この景色もどうせすぐ忘れられなくなるんだろうな。




 
 「ゔぅ..」





 六郎太さんが泣いてる。その声はひょっとしたら泣き声ではなく、新しい幸せの産声だったのかもしれない。

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