タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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19.調査






 日が傾いてきた。僕は優と並んで座り、デスクを挟んで依頼人と向き合う。彼は名を六郎太と言った。とりあえず客人用に出したコーヒーをすすっている。沈黙を打ち破る様に優が喋り出した。




 「...まあそんで、依頼っす。」




 「いや、依頼はわかったけどさ、その、何の依頼なんですか?」




 僕は依頼人に尋ねる。人見知りなのだろうか、うっすら額に汗を浮かべている。その男はずっと俯いていたが、ある刹那顔をあげてようやく一言漏らした。しかし、声が小さくて聞こえない。




 「...あの、すみません、聞き取れなくて...。もう一度よろしいですか?」




 聞き返すとまた俯いて黙ってしまった。暫く沈黙が続く。どうしようか、優にアイコンタクトしようとした時またその男は顔を上げた。




 「...あ、あの...。妻の浮気調査です...。」




 聞こえた!依頼は妻の浮気調査だ!この機会を逃すまいと僕は声を上げて言った。



 「はい!奥様の浮気調査ですね!ではこちらの用紙に具体的な情報をご記入ください!あ、もちろんプライバシーは遵守しますので!そしたら今日はもう遅いんでご帰宅頂いても構いませんよ!」



 僕は棚から用紙とペンを取り出し、男の前に置いた。男はまた俯き、小さく頷いて記入事項を埋め始める。優は男の様子をじっと見つめていた。





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 男は結局それから一言も喋らず帰って行った。




 「はあー、なんか変な人でしたね。」



 優がソファに寝転びながら言う。



 「そうだな。あのまんまじゃ話が全然進まなかった。」




 「なんかあの六郎太って人白樺屋の常連さんらしくって。長い付き合いだからあの店員ちゃんには相談したりもするらしいんっすよね。でも初対面の人とかにはいっつもあんな感じらしいですよ。」




 「ふーん、でもまあ意外だったな。まさか嫁の浮気調査だなんて。」




 「結婚できたのも奇跡ですよね、超人見知りすぎて。...でも、調査できるんっすか?書いてもらった情報だけで。」




 「六郎太さんの情報と、その奥さんの情報を詳細に書いてもらったから大丈夫だ。そして、」




 僕は書いてもらった用紙を優の目の前に突き出す。




 「これを優に一瞬でも見てもらえば完璧。」



 「うわっ!」




 優は慌てて目を逸らす。が、時既に遅し。




 「くそ、やられたー!!!もー、覚えちゃったじゃないっすかー!!」




 ソファに寝転んだまま足をバタつかせている。




 「優はこうゆう使い方が一番役立つよな。これを基に早速明日調査に行くぞ。」




 と言った時無敵さんが帰ってきた。




 「ただいまー、ふぃー。疲れた。寝る。」




 無敵さんは帰宅した勢いそのままでもう一つのソファに向かう。と、その時僕が突き出している用紙が彼の視界に入った。




 「ん!?なんじゃ、その紙。」




 「ああ、調査依頼の情報を書いてもらった奴です。」




 「調査依頼!?」



 
 声量が一段階上がった。無敵さんは目を輝かせている。




 「ようやく依頼が来たんか!!よっっっしゃゃゃ!!!で、どんな依頼じゃ?」




 「奥さんの浮気調査です。」




 僕がそう言うと先程までのテンションが嘘の様に無敵さんの表情は暗くなった。




 「...そ、そうか。浮気調査か。まあ、探偵じゃからそんなもんじゃろ。頑張ってくれ。」




 無敵さんはふてくされてソファに倒れ込んだ。それを見ていた優がニヤケながら言う。




 「あれ、無敵さんどしたんすか?楽しみにしてた依頼ですよ?」




 「いや、ワシなんか役に立てんじゃろ...。だってワシ、力が強いのが自慢なのに...。獣退治ならまだしも、浮気調査って。パワー一切関係ないじゃないか...。」




 今日はなんだか無敵さんの背中が小さく見える。まあ何事にも向き不向きがあるよな。優も何かを察した様な顔をして黙る。





 「...寝ようか。」




 そっと事務所の電気を消した。
 

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