タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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10.森





 翌日僕達は森の前にやってきた。




 「ほ、ほんとに行くんすか?」



 「あ、当たり前だろ。初めての依頼だろ。こんなの序の口だ。」




 強がってはみたもののいざ目の前に対峙するとやはり膝が笑い出す。いや、行くんだ!困ってる人がいる限り!!



 
 「太一さん、離さないでくださいよ。」




 「お、おう。」




 昼間ということも相まって、不気味ではあるが日が暮れ始めた時に比べればまだ幾分大丈夫そうだ。一歩一歩確かめながら歩く。恐らく誰も手入れしていないのだろう、草木がびっしり生えていて、まるでこの中に入ってくるのを拒んでいるかのようだった。



 
 少し森を歩いていると段々この異様な雰囲気に慣れてきた。一方で優は震えながら僕の裾を掴みいちいち悲鳴を上げている。




 「優、大丈夫か?」



 
 「うぅ...俺こういうの弱いんすよ。」



 「気をつけていけば大丈夫だから。」



 かなり歩いてきた気がするのだが肝心の白い犬は見つからない。もう少しだけ探してそろそろ森を出ようかと思っていたその時、




 「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」




 「ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」




 どこからともなく男の叫び声が聞こえ、反射的に優が悲鳴を上げた。何か事件が起きているのだろうか。怖気付いている優をよそに僕は声のする方へと走った。






 どれくらい走っただろうか、森を走っていると1人の男が立っているのが見えた。話し掛けようとしたその時、





 「キェェェェェェェェェェェェェッッッッッ!!!!」




 何か鳥の鳴き声のようなものが聞こえて思わずギョッとした。その男の前には人間3人分くらいの大きさのとてつもなく大きいドラゴンがいた。その見た目は赤い鱗に覆われていて完全に化け物の姿をしていていた。しかし、そのドラゴンに対峙している男は怯える様子もなく真っ直ぐそのドラゴンを見つめている。よく見ると血塗れだ!武器も何も持ってない。大丈夫なのか?助けてやりたいがこちらも武器を持っていないので、何もできずただ陰から見ることしか出来なかった。




 「た、太一さん、待ってくださいよ~!!」




 
 追いかけてきた優がこちらに近づいてくる。その時、





 「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」





 ドラゴンが鱗だらけの翼を広げて男に襲い掛かって行った。



 「はぁぁぁぁぁ、必殺!!破壊突き!!!」




 男はドラゴンの胴体に向かって拳を突きつけた。するとドラゴンは怯み後ろに仰け反った。




 「ギアァァァァァァァァァァァァ!!!!!」





 「ギアァァァァァァァァァァァァ!!!!!」





 ドラゴンの鳴き声が轟くと同時に優が悲鳴を上げた。2つの大声は見事にユニゾンし空に消えていった。ドラゴンと男の一連の流れを見てしまった優はその場で気絶してしまった。ドラゴンは仰け反った勢いそのままに翼をはためかせ空に飛び立っていった。男はそれを見届けその場に倒れ込んだ。




 「大丈夫ですか!!!!」




 僕は男の傍にかけよった。その男は遠目で見た時よりも激しい出血で体力も相当消耗しているようだった。





 「おぉ...ありがとう...しかし...逃げられてしもうたわい。」





 男は声を絞るように言った。




 「歩けますか?とりあえず安全な場所に行きましょう!!」




 「おお...すまんな...」




 僕は意識を失っている優を背負い、血塗れでよろよろ歩く男を支えながらとりあえず森を出た。







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とりあえず森に近くて安全で知り合いのいる場所、葵の家を訪れた。葵は僕達を見てかなりびっくりしていたが男の手当てをテキパキと進めてくれた。僕は優をソファに寝かせた。




 「すまない。白い犬...ミルクちゃんを探しに森に入ったらデカいドラゴンとこの男の人が闘っているのが見えて。その人傷だらけだし、優はそれ見て気絶するし、それでどうしようもなくて葵の元に...。」





 「気にしないで...一応そこの気絶してる人の看守だから...これも仕事...」





 葵は男の人の傷を消毒して薬を塗っている。その男の人はただ黙っていたのだが急に口を開き始めた。




 「すまんのう、兄ちゃん。助けてもろうて。助かったわい。」




 「いや、気にしないでください。それより何があったんですか?あのドラゴンは何者なんですか?もしよかったら、その、教えてくれませんか?」




 その男を改めて見て訊いた。その瞬間彼の胸元を見て僕は目を見張った。先程はあまりの出来事でそこまで見る余裕がなかったが彼の胸元には確かに数字の書かれたワッペンが貼ってあった。



 5番ーーーーーー



 彼は僕達と同じ囚人の1人だった。

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