タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜
5.若草優
「俺がこの街に入れられたのは4日前なんっす。」
囚人番号8番は炒飯をある程度胃の中に入れてから言った。桔梗がそれを眺めながら訊く。
「あんたどんな罪犯して入れられたの?」
「痴漢と盗撮っす!!」
そいつが自信満々に答えた。明らかに桔梗は「うわぁ..」と呟き軽蔑の目で見ている。
「いや、違うんっすよ!!盗撮は確かにあったかもしれないっすけど、痴漢はしてなくて、冤罪っよ!!それなのに全部弁護士に任せてたら気づいたら刑務所入っちゃいました。」
「うわぁ、お前最低だな。」
思わず僕も言ってしまった。
「それは、あんたも一緒じゃないっすか!!同じ囚人なんだし!もちろん、反省してますよ!!まあ、痴漢はやってないんであれなんですけど。で、この街に来て、看守の子に捕まったんすよ。ショートカットの小さい子で...」
「ああ、葵かしら。」
「知り合いなのか?」
「看守やる子はみんな同じ学校行ってるから。」
「そう!その葵ちゃんにここまでのこと言ったんすよ!そしたら露骨に引かれちゃって..」
「あ、あぁ...」
一同納得のリアクションだった。桔梗は汚物を見るような目をしている。唯一おじいさんだけが微笑みの眼差しで見つめている。
「それでも好かれたくてしつこく付き纏ったら見放されて...腹も減るし帰る場所もないし...トホホ」
そいつは炒飯を平らげて言った。なるほどそれで道にうずくまって泣いていたのか。話だけ聞くとどうしようもない奴なのだが、同じ囚人だからか、ほっとけなかった。僕は助けてやろうと思った。
「おじいさん、僕が勝手に連れて来て申し訳ないんですけど、こいつ今日泊めてやってもいいですか?多分これも人助けになると思うんです!」
おじいさんは少し目を丸くしたが、すぐにまたにこやかな表情で微笑んだ。
「ああ、いいとも。しかし、この家で空いている部屋はもうなくての、7番くんの部屋に泊まってもらうことになるがいいかの。」
「え?」
「俺は構いませんよ!!」
そいつはこちらを見て目を輝かせている。なんでそんな目をしてるんだ。
「いや、そうじゃなくて。お前はリビングで寝ればいいだろ。」
「いえ、布団と枕で寝たいです!!」
そいつの目がキラキラしている。この顔は何を言っても聞かない顔だ。僕が助けてやると言ってしまった手前腹をくくるか。
「はあ、わかったよ。」
「うぉぉぉぉぉっしゃぁぁぁぁ!!」
そいつはとんでもない勢いで跳ね上がり、喜んだ。
「ほっほっほ。まあ2人とも仲良くな。じゃあ、わしはこの辺で。」
「あ、あたしも行く。」
おじいさんと桔梗は食事を終え、食器を片付け始めた。桔梗は片付けた後こちらに近づいて来てそいつに話しかけた。
「ちょっと、そこの8番!!」
「お、何すか?告白っすか?」
   
「ちょっとでもあたしに手を出したら殺すから!」
「は、はい...」
桔梗は鬼の形相でそいつを見て階段を上がっていった。
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僕たちも食事を終え部屋に戻った。
「で、これからよろしくお願いしまっす!若草優、23歳です!!優って呼んでください!!」
そいつが元気よく挨拶する。
「いや、挨拶されても、この街では番号でしか呼ばれないし。」
「いや、せめて俺たちだけでも名前で呼び合いましょうよ。同じ仲間なんだし。」
「仲間」。僕は東京で働いていた時には実感できなかった仲間という言葉の響きが嬉しくて少し心を開いた。
「まあ、確かにな。」
「7番さんは何て名前なんっすか?」
「...小島太一。」
「じゃあこれから太一さんって呼びます!」
「ああ。」
「太一さん何歳なんですか?」
「...24。」
「じゃあ、俺の一個上っね。」
「...ああ。」
「ところでどうします?人助け。なんか異能力とか葵ちゃんから聞いたんですけどあんまよくわかんないし。もしよかったら一緒に人助けしないっすか?これから。」
「ああ。...え?」
「ほら、太一さんは俺の命の恩人なんで。」
「いや、そんな大したもんじゃないよ。」
「いえ!助けてもらいました!なんで恩返しに俺は太一さんの役にたちます!」
こいつ、最初やばい奴だと思ったけど案外いい奴かもしれない。この日は2人で出所する為のプランをいろいろと語り合った。
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