タヒチ探偵局〜罪人どもの異空間〜

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4.散歩







 「いい天気だなぁ」





 思わずそう呟いてしまうほどカラリと晴れた空だった。天気がいいと気分も上がる。今日は家の周りを探索してみよう。靴を履き扉を開けた。やはりこの見慣れない風景に多少戸惑うが、僕はむしろ元々いた世界より居心地がいいだなんて能天気な気分でいた。






 散歩しているとわかるのだが、日本とかなり似ているがやや違う部分がいくつかある。まず、みんな辛い食べ物を平気で食べる。昨日の桔梗とおじいさんも辛いスープを普通に食べていたが、店に売っている食べ物はみんな真っ赤で辛い味付けになっていた。恐らくこの街に住む人の国民性なのだろう。そして、お金も少し違う。硬貨と紙幣があるのは変わらないのだが、紙幣に書いてある肖像画が全然知らない人だ。中にはサングラスかけてる奴までいる。単位は円ではなくben。なんだそのニアピン。なんか似てるようで少しずつ違う文化があってそれを見つけていくのは堪らなく楽しかった。街の人もフレンドリーに接してくれて、囚人番号を胸につけた僕にも優しく接してくれた。







 3時間程の散歩を終え、家に帰ろうとした時、茶髪の男がうずくまっているのが見えた。僕は具合が悪いのかなと思って大急ぎで近寄った。






 「あのーー、大丈夫ですか....?」




 「うぅ.....うぅ....」




 泣いている。大人の男がこんな天気のいい日にうずくまって泣いている。人助けになるかもしれない。すっと手を差し伸べようとした。その瞬間、胸に貼り付けてあるものが見えた。





 「8番」
 囚人番号!こいつは囚人だ。まあ僕も囚人なのだが。白のシャツに赤いラフなジャケットを着ていて、下はジーンズを履いている。なんかチャラチャラしてる感じだな。何の罪で刑務所に入ったんだ!?その瞬間、そいつは顔を上げて僕と目が合った。そいつはガチ泣きしていた。





 「うぅ...うぅ....」





 やばい。このままほっとくわけにはいかない。とりあえず、家に連れて行こう。そいつをそのままおんぶして家路に着いた。そいつは僕の背中で黙って泣いていた。








□□□□□□□□□□□□□











 「ただいまー。」






 「おかえ....り..。」







 僕はそいつをおんぶしたまま家に帰って来た。桔梗が出迎えてくれたのだが、彼女は僕を見た途端、後ろにいるよくわからない奴も視界に入ったみたいで絶句していた。どうやらもう食事の時間で、おじいさんはもうリビングでサラダを食べていた。





 「あ、あの。なんか散歩の途中で泣いてうずくまってる人いたんで、とりあえず連れて来ちゃいました...。」





 「そ、そう...。」





 僕は背中の奴を下ろして靴を脱いだ。そいつはもう泣き止んでいて鼻水をすすっている。リビングに入っておじいさんに軽く会釈した。おじいさんは会釈の後何も言わず立ち上がり、僕とそいつの分の食事をわざわざ用意してくれた。僕とそいつは隣同士で座り、桔梗とおじいさんとみんなで食事を摂った。しかし、そいつは俯いたままで一向に食べようとしない。...沈黙が続く。何とも言えない変な空気が流れる。重い空気に耐えられなくなってきた時に、ついにそいつが無言でサラダを口に運んだ。と、その直後..








 「やっぱり..」







 そいつが呟いた。しかし声が小さすぎて何と言ったかわからない。聞き返そうとしたその時、







  「やっぱり...、辛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」









 急に叫び出した。桔梗とおじいさんはめっちゃ引いてる。やばい奴連れて来てすいません。そんなことなど眼中にないかのようにそいつは急に立ち上がって喋り出した。










 「なんだよなんだよ、刑務所入れられたら変な街連れてこられてさ、看守の子にも嫌われてさ、お腹すいても食べ物は辛いし、おかげでこの街来てから何も食べてないよ!!なんだよぉぉぉぉぉ!!餓死しちゃうよぉぉぉぉぉぉ!!こんなの実質死刑じゃんんんん!!!!」









 そいつは一気にそう叫んで、息切れしながら座った。2人が完全に引いてるから、僕がそいつと会話してやる。







 「お、落ち着けよ。大丈夫なのか!?」







 「大丈夫じゃねぇぇよ!!俺は!は、腹が減ったんだよ...」








 そう言って元気がなくなった。仕方ない。おじいさんに食材と調理器具を借り、そいつの為だけに料理してやった。僕が唯一作れる料理、炒飯。幸い、文化レベルが今の日本と変わらなかったので普段通り作ることができた。







 「ほら。」








 そいつの為に炒飯を山盛り作ってやった。そいつは小さくお辞儀をしてむしゃむしゃと炒飯を食べ始めた。気持ちが落ち着いてきたのか、一心不乱で食べている。それを見ておじいさんがついに口を開いた。








 「えっと、8番くん。ここに来てから何があったんじゃ。できればでいいから教えておくれ。」







 そいつは炒飯を飲み込みながら自分のことを話し始めた。

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