第２話　魔王

振り返るとそこにはこの世のものとは違うと一目見ただけで分かった。
　頭から生えた禍々しい形をした角が二本、自分の三倍以上もある身体から漂うおぞましいオーラが辺りを覆っていた。
　そのオーラのせいか、悪寒と吐き気がして俺は地面に四つん這いになった。

　「おお、すまない、オーラを抑えるのを忘れていた。」

　そう言うと、二本の角の生えた化け物にオーラが集まって消えていった。
　それと同時に悪寒と吐き気が徐々に治まってき、少しずつだが落ち着いてきた。
　落ち着いたことで頭に酸素が巡ったのか、妙に冷静に今の状況を考えることができた。
　この世で見たことのない化け物、どこを見渡しても暗い場所…どうやらここは俺のいた地球（せかい）ではないようだ。

　「ここはどこなんだ？」
　「ほう、やはり肝が据わっているな。」

　やはり？どういうことだ？俺はこの化け物を見るのは初めてなのに、こいつは俺のことを知っているのか？

　「まぁそう警戒するな、我は決してお前に手は出さない故、安心するがよい。」
　「じゃあ何のために俺はここにいるんだ？」

　正直、俺はここでこいつに殺されて死ねるものだと思っていたのに、どうやらそうじゃないようだ。
　なんでだよ……
　殺してくれよ……

　「お前には異世界へ行って我の夢を叶えてほしい。」
　「……え？」

　異世界？夢？こいつはいきなり何を言っているんだ？

　「おっと、名を名乗るのを忘れていたな、我が名は魔王ヴォルディアだ。親しいものはヴォルと呼んでいる。」
「は、はぁ…」

　俺は魔王という発言には驚かなかった、こんな辺り一帯暗い所にいるでかい化け物なんて魔王か死神くらいだと思ったからだ。
　そんなことよりも俺はまだ異世界というワードに戸惑っていた。

　「おいおいヴォルよ、そんなことより早く説明してやらんか、暮人殿が困っておるぞ。」

　俺の頭上の遥か上から優しいトーンの声が聞こえてきた。
　そのとたん辺り一帯暗かった場所に一線の光が現れ俺は眩しくなって目を閉じた。