異世界救う元漁師

琴瀬 ういは

その後…

ティオナが亡くなってから5年がたった。

当時は葬式などでかなりの忙しかったが、今は普段どうりに生活している。

歳は取らないが、精神年齢は27歳となり、落ち着いた性格になっている。


「あれからもう5年か、早いなホントに。」


俺は目を瞑り、あの後の事を思い出す。



■□  ■□  ■□  ■□  ■□  ■□  



ティオナが亡くなって1週間がたった。

ジル爺によるとかなり大きい葬式になると言うことらしい。
俺としては静かな方がいい。

俺とネロ、ジル爺とアーテルだけで。
でもそうはいかないらしい。
ティオナはかなりの上位の神様だった為、他の神がその死に対して心をかなり撃たれたんだとか。


葬式当時、ざっと200名程の神様達が集まった。

ジル爺達は受付で忙しいようだ。
そして俺も別の意味で忙しかった。
周りの神からコソコソと、俺を見ながら話す光景が見てわかる。


「…見ろ、あれがティオナ嬢が認めた奴だとよ。」

「まぁなんて目つきが悪いこと、とても近づきにくいわ。」

「お、おい。こっちを見てるぞ、ジルデット様が言うには、かなり強いと聞く。あまり近づかない方がいいぞ。」


かなり好き勝手言っている。
その光景を見ていたのは俺だけじゃない。
ネロもジル爺も見ていた。
アーテルは他の小さな神達と話している。

まぁどうでもいい、俺はただ…今できることをやるだけだ。
そう思い、俺も受付を手伝う事にした。
そこで一人の神に声をかけられる。


「そこの青年よ、少しばかり気になる事があるのだが。」

「俺ですか?」


かなりの体格が良い神だった。
葬式用の礼服を着ているがその上からでも分かるぐらいごつい体をしている。

髪は紅色で前髪をあげている。
目はまるで猛獣の様な輝きをしてきた。


「ジル爺は何処にいる?受付に行きたいのだが。」

「受付はすぐそこですよ、俺も今行くので一緒に行きましょう。」

「うむ、ならばついて行こう。」


という事で受付に来た。
ネロとジル爺が頭を下げている。
ん?さっきから他の神には頭を下げていなかったのに。
もしかしてかなり偉い神様なのか?
そう考えるとネロが口を開けた。
それも、物凄く緊張しながら。


「お久しぶりです…。えっと、アルフィム様…。」

「久しいのぉ、アルフィム。いや、時の剣帝神よ。」

「あぁ、久しぶりだ。月と創造の神よ。100年ぶりか、変わらんなお主は。」

「それはお主もじゃろ?たった100年じゃ変わらんよ。」


時の剣帝神……物凄く強そうなんだが。
なんか今、隣に立ってはいるものの膝を着いてしまいそうだ。
それぐらいこの神の周りの空気が重い。


「それではこちらを…どうぞ。」

「あぁ、ありがとう。ネロも残念だったな、お主はこの度誰の従者となるのだ?」

「え、えっと、まだ未定ですが。そうですね、1人だけ検討している方が居ますので、ご心配はいりません。」

「む?それはこの隣の青年か?うむ、それなら納得は行く。青年よ、ネロは良い奴だ。なんならお前の物にしても良いぞ。」

「ふぇ!?しょ、それは…えっと/////」


なんで顔を赤らめてるの。
しかもこの神様も随分冗談を言うんだな。
それに今は誰かを貰うとかそんな考えはない。
だから直ぐに否定する。


「すみません。今は…そんな事を言ってる場合では…ないです。」

「うむ、そうだな。すまんすまん。さて、俺は席に着くよ。また後で話そう、青年よ。出来れば2人きりがいいな。」

「分かりました、また後で。」


そう言って彼は席に着いた。
ほんとびっくりするなぁ、他の神様はこんな感じなのか?
というかまだ、顔を赤くしているネロを今は落ち着かせないと不味い。
受付が出来なくなる。


ネロを落ち着かせてから葬式は始まった。
前にはティオナの元気そうな写真が飾られている。

その下には棺桶に入ったティオナが花に囲まれて永眠している。

一人、一人、ティオナの元に花を置いて行く。最後はこれの番だ。

俺は黙って花を置こうと思ったが、心がそれを許さなかった。


「ティオナ、俺はお前の願いを受け止めるよ。お前の分まで生きて幸せになるから。でも、困った時や歩く足を止めてしまった時は…情けないけど、背中を…押してくれよ。」


俺が言った最後の言葉に、殆どの神が同情したと、後からジル爺から聞いた。

葬式が終わり、俺は1人とある場所に来ていた。

最初に皆と出会った花畑の世界だ。
俺の隣には棺桶に入ったティオナがいる。

これから、俺一人でこの花畑にティオナが生きた証を建てる。

創造で作ったスコップで土を掘っていく。
その時、俺はただひたすら泣いていた。

掘り終えてからゆっくり穴に、棺桶を置いて土を被せた。
最後に<獣神─猫獣神ティオナ─ここに永遠に眠る>と書いてある石をそこに立て、花を添えて終わった。

暫く墓の前にいると、後ろから誰かに抱き締められた。

ネロだ。心配して来たのだろう。


「レイ様…貴方は1人ではないです、約束します。例え皆が居なくなっても、私は、ネロは、貴方の前から居なくならないと。ずっと一緒にいます。」

「それは……俺に仕えるってこと?それでも、別の意味で?」

「贅沢を言えばどちらもです。でも、貴方はきっとティオナ様一筋でしょう。ならば、貴方のメイドとして一緒に居たいのです。」

「・・・・・・・・・」


なんて言ったらいいか、分からなかった。
こうゆう時は黙り込むとダメって感じがするが、どうしても黙ってしまう。

それに俺はティオナ一筋とい訳では無い。
ティオナからはもっと素敵な人を見つけてとお願いされたからだ。

普段なら心を読まれて突っ込まれるが、今はそんなことも無い。
それほど成長したのだ。


「そろそろ帰ろう。遅くなったらジル爺とアーテルが心配するから。」

「まだ…まだ答えを聞いていません。私は答えを聞くまで帰りませんよ。」

「・・・・・・分かった、ネロ、俺に仕えてくれ。何かあっても、俺は大丈夫って言うだろうけど、多分、違うと思う。その時は助けてくれ。」

「ええ、もちろんです。それが私の務めですから。」


そして、俺たちが住む空間に帰り、皆でご飯を食べた。

その後、俺が寝る時にネロがベッドに忍び込んで来たことは誰にも言っていない。


葬式から1週間が立ち、とある人物に呼ばれた。
そう、時の剣帝神である。


「おお、来たか。お主と話したかったのだ。うむ、ネロも一緒だったか。」

「私はこの方の従者ですので。」

「はっはっはっ、そうかそうか。さて、話をしよう。ネロよ、椅子とテーブルを出してくれ。」

「承知致しました。」


目の前に椅子とテーブルが現れる。
次にコーヒーと紅茶、クッキー等が出てきた。


「話ってなんですかね?」

「うむ、お主はどんな神か、分かっておるか?ジルから聞いてはおらぬか?」

「いえ、分かってもいませんし、聞いてもいません。」

「そうか。ならわしから申す。お主はの……時空と創造の神だ。」

「えっと、具体的にどんな神なんですか?」

「まぁ創造はわかると思うが、時空というのはわしの  時  の上位だと思えば良い。だから、お主はわしより強いしジルより遥かに強いぞ。」


衝撃の事で言葉が出なかった。
ネロも絶句している。
時空と創造の神、その響きにかなり影響を与えられた。

「お主はもう創造ではあのジルを超えておる。ただ戦闘に置いては工夫がないから負けるのだ。」

「じゃぁ、俺はどうすれば…」

「わしが鍛えてやる。お主は剣を扱うだろ?それに  時  の事も教えられる。2日後に鍛錬を始めるから準備をしておけ。」


かなり急な事だった。
でも俺は力をつけたかった。
そして時の剣帝神はその場を後にした。
俺の返事なども聞かずに。いや、必ず来ると思って聞かなかったのかもしれない。


2日後・・・

時の剣帝神にボコボコにされました。

剣の打ち合いでは負け、創造を使った戦闘でも負け、俺は大の字で倒れていた。


「アッハッハッハッハッ、わし相手にここまでやるとは中々だ。気に入ったぞ。(最初は少しばかり手を抜いていたが、徐々にスピードが上がっていく。まさかこの剣帝が剣で胸を切られるとは……侮れんな。)」


くそっ!なんであの剣帝神は胸を切られて怯まないんだよ。
ただ悔しかった。


「お主はもうすぐで理に達そうとしておる。最近ジルとは闘っておらんのだろう、今なら勝てるぞ。このアルフィムが認めるのだ。自信を持て。」

「もっと強くなりたい…。だから教えてください。」

「はっはっはっ、もちろんだ。神たるもの、力なくてはならんからなぁ!」


それから3年間、みっちりアルフィムに鍛えられた。
最初は呼び捨てしてはいなかったが途中からは自然と呼び捨てしていた。





3年後・・・




俺は今、時の剣帝神と対峙している。

周りにはネロやジル爺、アーテルもいる。


「さて、最後の授業をするか。覚悟をするが良い。」

「よろしく頼むよ。俺も全力で行くっ!」


最初に仕掛けたのはアルフィムだ。
超高速で俺の後ろに回り、袈裟斬りで強襲をかける。

だが俺はこれを創造で作った剣で防ぎ、しゃがんで相手の足を蹴り、体勢を崩す。

しかし、アルフィムは受身を右手で取り、体勢を直し、バックスッテプで後退。
それを逃さず、相手に剣の柄先を蹴り追撃をしたが、剣で弾かれた。


「流石だな、動きに磨きがかかっているぞ。」

「当たり前だろ?あんたの弟子だぞ。」

「はっはっ、ならばこちらの力も使うとするかっ!!」


そう言った瞬間に俺の懐に飛び込んで来た。
いや違う。時の力で時間を停止して来たのだ。
それでもあえて切らないのは楽しみたいのだろう。

アルフィムの攻撃を弾くと、体が後ろによろめく。
次に右から追撃が来た、それも弾くがまたよろめく。
次は後ろから、次は上から、次は左からと次々連撃をしてくる。

この対処法は意外と簡単。
俺も時を停めればいい。

お互いの連撃が凄まじい音を上げながら繰り返される。

防ぎ、躱し、切り、防ぎ、躱し、切り。


それを何時間も繰り返した。
どれほど経ったかは両者には分かっていない。

ずっとこうしてても埒が明かない。
仕方ない、あれを出そう。

俺は一旦下がり、剣を構え直した。
今までだれにも見せたことない構え。

呼吸を整える。
大丈夫、俺なら出来る。

そこで後ろに何かを感じた。
静かで透明な声で、それは言った。


(大丈夫よ。私が、ティオナが見守っているから。だから、その剣で羽ばたきなさいっ。)


その瞬間、俺の周りには純白の羽が何本も浮かんでいた。

黒い刀身は次第に白くなっていく。


「うおぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!!」

「む!これはっ、そうか、ついに己を超えたかっ!」


俺は一気に駆けた。
その剣と、愛していた人の翼で。


周りから見てもこの闘いは想像以上だった。
俺は今ただ剣を握りながら立っている。
力を使い過ぎて動けないのだ。

でも今は感謝したかった。
ティオナがいなかったらあの技は成功してなかった。

俺は空に向かって・・・


「ありがとう…そして、ゆっくり…おやすみ。」



それから2年経ち、今に至る。

俺は野原で横になっていた。



「レイ様…。」

「ん?」

「私も隣で横になっても良いですか?」

「あぁ、いいよ。」

「そ、その…腕枕とかしてくれますか?枕がないと…その…。」

「うん。これでいい?」

「はい…。ありがとう…ございます。」


俺はアルフィムとの激闘の後、名前を与えられた。


レイ・アルヴェゴルド・アストレア


これからどんな事が起こるのか、俺は楽しみでしょうがない。


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