そこからはじまる恋!

成瀬瑛理

嘘と切なさの間1

 葛城は反らした瞳を戻すと、彼の顔を真っ直ぐ見つめた。そして、自分の思いを口にしたのだった。



「……阿川、俺はお前の気持ちには応えられない。これが俺が出したこたえだ」




「葛城さん――」




 彼の口からその言葉を聞くと、阿川は悲しげ表情で顔を曇らせた。


「俺は男で、お前も男だ。同じ同性を好きになれるお前とは違う。俺達がしようとしていることは本来間違ってることだ。それにお前は俺よりも年下じゃないか。好きだの愛してるだのそれは、一時の感情かも知れないだろ……?」


 葛城は阿川にそう話すと、決してその瞳を反らすことはなかった。その瞳の奥は研ぎ澄まされた刃のように無感情に等しかった。阿川は葛城の口から思いを告げられると、ショックが隠せなかった。ただ無情にも、二人の間に空しい時間だけが流れたのだった。


「俺は一時の感情に流されるほど、もう子供じゃないんだ。人生はまだこれからなんだ。こんなところで道を踏み外す暇があったら真っ当な大人になれ……!」


 葛城は最後、彼にそう言い残すと自分から去ろうと背中を向けたのだった。



「酷いな葛城さん。今のはちょっと、俺でも傷つきましたよ。俺は貴方が好きです。だから貴方の本当の気持ちを教えて下さい。今のは本心ですか?」

 彼のその言葉に葛城はピタリと足を止めると僅かに身体を震わせた。そして、一言「ああ……」と返事をした。その瞬間、阿川は後ろからバッと抱き締めた。


「葛城さんお願いです! 俺から逃げないで下さい! 俺は貴方の本心が知りたいです……! だから嘘なんかつかないで、ちゃんと俺に……!」


「はっ、離せっ……! この腕を離せと言ってるんだ!」


「嫌です……! 離しません……! 離したくありません……!」


 阿川は後ろから彼を抱き締めると、その強い腕はまるで頑丈な檻のようだった。自分を閉じ込めて離さないその腕の中で、葛城もまた彼に対して心がかき乱されたのだった。


「阿川やめてくれ……! 頼むからこれ以上、俺の心をかき乱すなっ!」


「えっ…――?」


 葛城のその言葉に阿川は思わず、抱き締めた腕を離したのだった。閉じ込められた腕から解放されると、葛城は息を切らしたまま、酷く動揺していたのだった。



 葛城は阿川に対してこの気持ちが何なのか解っていた。だけどそれを自分自身が知るのが怖かった。そしてその気持ちを受け入れてしまうことに、恐れすら感じていたのだった。

 同性を好きになったことがない彼には、阿川の気持ちを受け入れることは難しいことだった。そして、今までの自分を変えるには勇気がいることだった。葛城は阿川の気持ちを知っていながらも、それをはね除けることしか出来なかったのだった――。





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