そこからはじまる恋!

成瀬瑛理

決意1

――あれから色々とじっくり考えた。そして、まる1週間が過ぎた頃、俺は決意を決めると退職届けを鞄に入れて、会社に出勤した。

 きっとこの道はもう通らない。
 毎日、通勤で向かうこの電車にも乗らない。

 ホントにこれきりだ。
 今日で最後にしよう、そしてあいつとも…――。


 会社に出勤すると、エレベーターの前で自分が配属されているオフィスの階のボタンを押した。1階から5階に上がると、急に息苦しさに襲われた。久しぶりの出勤だったから緊張したのかも知れない。

 今までこんなに休んだことはなかった。きっと今頃、仲の良い同僚が俺が暫く来ないことで心配しているだろう。俺は今日辞める人間だが、あいつらにはちゃんと顔を出しておきたい。

 エレベーターが7階に上がると、扉が開いた。俺は深呼吸してから足を一歩前に踏み出した。戸田課長に退職届けを提出したら自分のデスクを片付けて家に帰ろう。そして、この東京からも――。

 並みならぬ覚悟を決めると、俺はエレベーターの出口から一歩を踏み出した。すると突然、誰かにぶつかった。


「葛城っ!?」

「柏木……!?」

 誰かに名前を呼ばれると、ぶつかった鼻を押さえて顔を上げた。すると目の前には、同じ部所で同僚の柏木と遭遇した。

 彼は俺と同じ同期にここへ入社した。最後にこいつの顔を見れただけでも、自分の中では一つケジメがついた。柏木に自分が辞めることを伝えようとした時、出会すなりに話しかけようとした時、向こうから真っ先に話しかけてきた。

「久しぶりだな。1週間も休んで心配したぞ。お前まさか、どこか悪いのか?」

「ああ、嫌。ちょっとな……」

「心配したからお前の所に見舞いに行こうとしたんだけど、忙しくてなかなか行けなかった。だから悪いな?」

 柏木はそう言って手を合わすと、相変わらず調子の良い言葉を言って謝ってきた。俺はそこで呆れたように笑うと、一言文句をあいつに言ってやった。


「あっ、そうそう。お前聞いたかよ?」


「何を?」


「いや、ちょっと朝から大変なんだよ。戸田課長がさ…――」


「戸田課長がどうしたんだ?」


 俺が何気無く聞き返すと、柏木は少し顔を少し近づけて耳打ちして話した。




「阿川が今朝、戸田課長に退職届けを出したんだ――!」




「なっ……!?」




 その話を聞いた瞬間、全身から血の気が引いた。何でと言葉に出すと驚きを隠せなかった。自分が先に退職届けを出すはずだったのに、何故かあいつが先に退職届けを出していた。



 何でだ阿川!? 一体、何で……!



 あいつが今朝、退職届けを出した話しに衝撃を受けると持っていた鞄を床に落とした。そして、目の前にいる柏木に迷わずにグイッと掴みかかると、取り乱したように慌てて聞き返した。


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