水魔法しか使えませんっ!〜自称ポンコツ魔法使いの、絶対に注目されない生活〜

地蔵さん

終わりの始まり 後編

謁見の間にて跪き、しばらくすると。


「顔を上げよ。」


声が掛けられました。
顔を上げるとそこには、恐ろしく美しい顔をしたお方が玉座に脚を組んで座っていました。
銀髪に紫の瞳、女の私から見ても見惚れるような白い肌。
この方が、魔王様なのでしょう。


「レスナー、この者が?」
「はい、陛下。潜在魔力はこの領内でも相当高いモノをもっています。」


私の魔力ってそこまで高かったのですね。
それでも私では宝の持ち腐れですけど。


「そうか、ならいい。おい、娘。」
「っ!」


思わず返事をしそうになって、慌てて口をつぐみました。
まだ発言の許可が出ていません。
そんなことをすれば、後でお父様にどんなお仕置きをされるか、、、


「貴様には人間領との国境近くにある拠点の防衛をしてもらう。」


拠点の防衛?私に?


「意味が分からんという顔をしておるな。だが、今重要なのは貴様の意思だ、発言を許可する。」
「あ、あの、、、魔王様のお役に立てるなら何でもするつもりです。ですが私にそんな大役が務まるとは、、、」


とてもではないけれども、ご期待には添えそうにないと思ってお断りしようとしたのですが、、、


「貴様は、私が出来ると言う事を頭から否定するつもりか。何様のつもりだ?」


魔王さまの目がスッと細められ、不機嫌そうにこちらを見てくる。
なんだか謁見の間全体が冷えるような感覚、なのに全身の毛穴が開いたように冷や汗が止まらない。
答えを間違えたら、死ぬ。


「大変光栄でございます!!微力を尽くさせて頂きます!!!」
「、、、それで良い。」


部屋の雰囲気が元に戻った。




魔王様は立ち上がると、私のそばまで降りてきて下さった。
そしておもむろに手を前に差し出すと、空間を切り裂いて漆黒の剣が飛び出し、魔王様の手に収まった。


「これは我が魔剣の一つ、【絶鳴剣パラポネラ】。」
「は、はい、、、」
「これを
授けよう。」
「そ、そんなに貴重なモノを?」
「よい、貴様のように素質のあるものには使いこなす事が出来るだろう。この剣の力があれば、貴様は人間ごときに遅れを取ることはない。戦い方はこの剣が教えてくれる。」
「は、全ては魔王様の為に。」
「貴様の力で拠点を守り切ってみせよ。さすればこの都市に帰ってきた時にはそれ相応の待遇で迎えてやろう。そしてその剣は貴様にくれてやる。」
「身命を尽くします。」
「契約成立だ。」


直後、魔王様は私の腹部にその魔剣を突き刺しました。
今まで感じたことが無いほどの激痛が体を駆け回ります。
いつまでも去ることの無い痛み、そして刺された魔剣に体の内部をかき回されているような感覚。
魔王様の御前であるというのに、ノドが張り裂けても構わないという位には絶叫していた事と思います。
ついに激痛に耐えきれず、私の意識は闇に沈んでいきました。




















目を覚ますと、そこは私の知らない空間でした。
薄紫に光る、大きな空間です。


「やっと目を覚ましたか。」
「ん、、、お父様?」


「やっと、魔剣がお前の体に馴染んだようだな。」
「体に?それは一体どうゆ、、、ヒィッ!?」


お父様に気付き慌てて体を起そうとした所で、私は体の違和感に気付きました。
下半身が、、、私の腰から下が、巨大な虫になっている!?


「そう、お前は魔剣の力を手に入れ、アラクネとして進化したのだ。」
「そ、そんな、、、アラクネといっても、通常ここまで巨大なサイズでは無かったはずです!」


「そこは魔王様の、またはその魔剣の力なのだろう。」
「しかしこれでは、日常生活すら支障が出てきてしまいます。」


「細かい事を気にする事は無い。なんにせよ、ここを守り切ることができれば、魔剣を自由に使える権利に加え、爵位まで頂けるとの仰せだった。」
「それは本当ですか!?」
「ああ、間違いない。だから気を張ってこの樹海を守り抜くのだぞ?それが我らひいては魔王様の助けになるのだ。」


「ええ、お任せ下さい。この命に換えても、ここをお守り致します!」
「よし、それでは私は自領に戻る、しっかりやるのだぞ?」


そうして、お父様は出て行かれたのでした。




………………………………………………………………………………






「随分魔剣が馴染むのに時間がかかったな。」
「抵抗が強いという事は、それだけ素質に溢れているという事です。あれは体に大きな負荷をかけますから。」


「それにしても、これだけの美貌だ。惜しくは無かったのか、侯爵。」
「自分の長所を活かせる気概があれば惜しくもあったでしょうが、、、これが陛下のお役に立つ一番の道でありましょう。」
「よし、それでは早い内に樹海へ運んでおけ。」
「御意に。」


「あの気弱な娘の事だ、早ければ数カ月で脱出を計って魔剣の養分なる事でしょう。」
「できれば娘さんには粘って頂きたいのですがねぇ。やはり時間を掛けて少しずつ魔力を吸収したほうが、よりしなやかで強靭な魔剣に仕上がりますから。全ての魔力を吸い尽くすのには、何も無ければ100年といった所ですね。」


「まぁ、人間にとっては何の意味も無いダンジョンだからな。攻め込まれるという事もないだろう。ゆっくり良い魔剣を作ってほしいものだ。」



「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く